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5 ヨウちゃんとフェアリー・ドクター
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しおりを挟む「葉児が開けた穴は、和泉が閉じた。で、傷が治ったおまえは、和泉を背負って下山した。オレと鵤さんはあのときは、鏡の世界にいたから、ふたりにふれられなかったんだ。見てるしかできないのが、しゃくだったな。葉児は、登山口で結界を解いたよ。で、家に帰ってきた」
「……結界を解いただけ……か?」
ヨウちゃんの声がうわずってる。
「リンゴの枝の杖をついて、穴を閉じ、結界を解く。それだけじゃ、まずい。巻きもどしの法は、儀式をすべて逆回しにして、再度行い直す。それでやっと、ティル・ナ・ノーグの穴を完全にふさぐことができる」
「つまり……杖で穴を閉じた後に、オークの木を、最初とは逆に九周まわって。祭壇をくずして。浅山の四方に置いたハーブを回収して。……それから結界を解くってこと?」
「……ああ」
あたしはさらに、一段、二段、階段をのぼっていった。
手もたれの向こうに、ヨウちゃんと誠が見えた。ふたりはならんで、踊り場の壁に背中でもたれている。
「葉児……。それさ……ホントはオレも気になってたんだ。あとになって、和泉の意識がもどってからさ。『あれ? 木を逆回りに九周してなかったけど、よかったのかな?』って。でも、今さら感満載だったし。葉児も和泉も笑ってたから、『もう、解決したんだな』って」
「……ヤバイ……。結界は解いてる。なのに、今さらどうやって、巻きもどしの法をしたらいいんだ……?」
ヨウちゃんは踊り場の壁に背中でもたれて、ズルズルと座り込んでいく。顔を両手でおおって。自分自身に問いかけるみたいに。
「……ね? じゃあまた、穴からハグが出てくるかもしれないの?」
あたしの声が、踊り場の壁にはね返った。
ヨウちゃんと誠が、ハッとあたしを見る。
「和泉……ぜんぶきいて……?」
「ね。穴は……ちゃんと閉じられてるわけじゃないってこと……?」
あたしの声、震えてる。右手でぎゅっとにぎりしめる自分の左手の甲が冷たい。
「……今さら……綾に、隠しごとなんかすべきじゃないよな……」
ヨウちゃんは、壁から背中を起こして、立ちあがった。
「綾が、オレのリンゴの杖で穴をついたなら、いちおう穴はふさがってる。でも、ほかの儀式をしてないから、カンペキじゃない。
なら、巻きもどしの法だけし直せばいいんだけど、巻きもどしの法を終える前に、結界を解いてしまってるだろ。つまり儀式で必要な、最初と最後だけは終えていて、その中身を丸きりしてないってことだよ」
「え~っと、つまり~、和泉、アレだよ。パソコンで言えば、ネット画面を閉じてすぐに、電源を切っちゃったみたいな。ほら、パソコンの授業でさ、パソコンを消すときには、ディスクトップ上の電源マークをクリックして、シャットダウンをクリックして、電源を切れって言われたじゃん」
う~。誠が、パソコンを例に出したから、よけいにあたしの頭、こんがらがったんだけど。
「……えっと。それならもう一度、結界を張り直して、巻きもどしの法をし直したら?」
「それだけじゃ、不足だ。きっちりと穴をふさぐには、もう一度、ティル・ナ・ノーグを開く儀式をして、穴を開けて、そのあと改めて巻きもどしの法をして、穴をふさがなければならない」
「でも……それってすごく……」
「たいへんだよ」
ヨウちゃんがため息をついた。
「おまけに、本気でハグが出てくる可能性もある」
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