ナイショの妖精さん

くまの広珠

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 きょうは日曜日だし、体育祭だから。授業も部活もない。体育祭の後に、かんたんなホームルームがあっただけで、すぐに生徒全員、一斉下校。

 そのせいで、昇降口は、生徒たちでごった返している。


「一年も今、終了?」


 ヨウちゃんと手をつないで昇降口におりると、二年のくつだなから、卯月先輩がひょっこり顔を出した。


「いや~、葉児君の走りカッコよかったよ~っ! でも、リレーで優勝できなくて残念だったね。あ、わたしがそこの子、追い越しちゃったからか~」


 卯月先輩は、ペロッと舌を出して、あたしとは反対のヨウちゃんの腕につかまった。


「ねね。葉児君ってこういうの興味ない? 今度、公民館で、ケルトの遺跡についての講演会があるんだって。大学のおエライ先生が講師にくるみたい。入場無料なんだけど。もしよかったら……」


 ヨウちゃんの左手をにぎってる、あたしのことなんか丸無視。卯月先輩は、自分のスクールバッグを開けて、中からチラシを取り出している。

 ヨウちゃんの腕が先輩の腕をするっと、すり抜けたのと、あたしが「やめてくださいっ!」ってさけんだのは同時だった。


「お、お願いだからもう、こういうことをするの、やめてくださいっ!!  ヨウちゃんにペタペタさわったり、ヨウちゃんをデートに誘ったり、誘われてもいないのに、ヨウちゃんの家に押しかけたりしないでっ!」



 昇降口がざわついてる。

 二、三年のくつだなから、先輩たちもチラチラあたしたちをうかがってる。

 後ろから、有香ちゃんと真央ちゃんもやってきた。


「……綾ちゃん、こういう話はもうちょっと、ひとけのないとこで……」


 有香ちゃんがオロオロしてる。


「……へ~え」


 卯月先輩は、ピンク色のグロスを塗ったくちびるで、キレイに笑った。


「カノジョちゃん、言えるようになったじゃない。でもね、わたしはこういうカレシの交友関係にまで、口出ししてくるカノジョって、どうかと思うわけ。だって、こういうのは束縛でしょ? 

自分に自信がないから、カレシをまわりの女の人から遠ざけて、自分のそばに置いておきたいんだよね?」


 ぐっと言葉につまった。


 あたしに自信がないから……?


「……ちがう。自信ないからじゃないです。だって……だれだって、好きな男の子のそばに別の女子がいるなんて、イヤだと思うから」


「……綾」


 のぞきこんでくるヨウちゃんの視線を感じながら、あたしは奥歯をかみしめた。


「でも……あたしは、『ヤダ』って言えなかった。あたしなんかに、そんなこと言う資格ないって思ってたから。『ヤダ』って言えたのは、あたしの自信です……」


「う~ん。あなたの意見が、いまいち、よくわかんないんだけど。じゃあさ~。もし、わたしも葉児君のこと好きだって言ったら? わたしだって、自分の好きな人のそばにあなたがいるの、イヤだな~」


 う……。どうしよう……。


 あたしを見おろしてくる卯月先輩の目は、おもしろそうに笑っていて、本気で言ってるのか、冗談なのかわからない。
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