ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 ナイショの特訓

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「綾、フォーム、だいぶよくなったぞ。太もももちゃんとあがってきた。これでタイム、かなりあがっただろ」

「ほ、本当~……?」


 ぜえぜえ息をつきながら、ヨウちゃんを見あげていると、ハーブの庭の奥の玄関から、ヨウちゃんのお母さんが顔をのぞかせた。


「葉児、綾ちゃん! 時間押してるわよ。もう切りあげて、朝ご飯にしましょう」


「は、は~いっ!」


 きょうは土曜で文化祭。で、あしたが日曜で体育祭の当日。

 カフェでヨウちゃんと向かい合って、熱々のフレンチトーストをかじっていると、ヨウちゃんのお母さんがカウンターから出てきた。


「文化祭って、一般公開は十時からよね。楽しみだわ~」

「かあさん、ここの店、休みにしてまで来る気かよ? 来たって、たいしておもしろくねぇぞ。高校みたいな出店もないし。個人の作品展示と、文化部の展示があるくらい」


 白けた目で食パンをかじってるヨウちゃんに、お母さんはほおをふくらました。


「あら、だけど、綾ちゃんの手芸部の展示があるんでしょ?」

「う。そ、それはありますけど……」


 あたし、しどろもどろ。


「そう言えば、作品づくりは終わったのか、綾?」


「終わったよ、いちおう……。きのう、ちゃんと部室に展示してきた。けどね……。有香ちゃんのなんか、ものすごくって。小さい子の真っ白なパーティードレスなんて縫ってるのに……。あたしなんか……」


「あんま『あたしなんか』とか言うなよ」


 ヨウちゃんがコーヒーに口をつけたら、なんだか店が静まり返った。



「あ。そ、そうだ。これ、ふたりにわたしたいんだった!」


 あたしは、ごそごそスクールバッグをさぐって、平べったい布を二枚取り出した。

 表は葉っぱの小柄の入ったパッチワークのハギレで、裏は無地の布。二枚を重ねて、ミシンで十センチの正方形に縫い合わせてる。

 お母さんには、うすピンクで、ヨウちゃんには、紺。


「これね、文化祭で配るコースターなんだけど、よぶんに二枚つくったの。この一週間ふたりにお世話になりっぱなしだったから、その……お礼……」


 って言ったって、こんなかんたんなもの、お礼になんてならないんだけどね。あたしがつくったやつだから、縫い目ふらふらしてるし。


「……ありがとう」


 ヨウちゃんは、目をしぱしぱさせて、紺のコースターを受け取った。


「うれしいわ。ちょっと一休みで、お茶するときにちょうどいいわね」


「……綾。けど、おまえノルマ三十枚って言ってたろ? うちに持ち帰って、それ縫うだけでも、たいぶ大変だったろ……?」


「うん。でも、三十枚も、三十二枚もかわんないよ」


 えへへって笑ったのに、ヨウちゃんは歯をかみしめて、両手でぎゅっと、コースターをにぎりしめてる。


「葉児、あしたはあなたも、いいとこ見せなきゃね」


 ヨウちゃんの肩に、お母さんはぽんっと手を置いて、「さぁ、お店閉めて、行く準備しましょ~」なんて、二階にのぼっていった。





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