ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 ナイショの特訓

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「ホント、ムカつくよな~、あの先輩のあの態度」


 休み時間。

 真央ちゃんが男言葉で、ジャージのポケットに両手をつっ込んでる。


「カノジョのいる前で、オトコにべたべたくっつくとか。ケンカ売ってるとしか思えない!」

「綾ちゃん、卯月先輩なんかに負けないでよね」


 髪にハチマキをむすびながら、有香ちゃんはキリッと前を見た。

 きょうはぼんやりくもり空。

 きのうの放課後の選手顔合わせでの、卯月先輩とヨウちゃんの会話を、ふたりもきいてたんだって。

 そしたらなんでか、ふたりの闘志にまで、火がついちゃったみたい。


「だからって、なんでオレが、敵のチームのやつにまで、リレー教えなきゃならね~んだよ!」


 校庭のトラックの前で、ヨウちゃんは肩でため息をついている。


「まぁ、いいじゃん。中条だって、綾を特訓してるのは、べつに、チーム優勝をねらってるからじゃないだろ~?」



「葉児ぃ、オレも混ぜて~」


 誠まで、ジャージ姿で校庭にとびだしてきた。


「ヤだね! おまえは速いんだから、大岩と無意味な戦いしてこい!」

「え~? オレ、大岩とは、サッカー部でいつも走ってるもん。あ、そうだ! オレ、和泉にバトンパスのしかた教えてあげる!」


 誠の右手が後ろからのびてきて、逆手で、あたしの左手にバトンをさしだした。


「はい! 和泉ぃ。手はこう。もっとバトンの下取って。こんな感じ~」

「え? でも、このパスって、授業でならったパスの仕方とちょっとちがう」


 誠がバトンの一番下を持って。あたしもそのすぐ上を持つから。おだんごみたいに、手と手がくっついちゃう。

 ヨウちゃんが、バトンでポカッと誠の頭をはたいた。


「イッタぁ~っ! なにすんだよ、葉児ぃっ!! 」

「おまえ、なんで、アンダーハンドパス教えてんだよ!」

「いいじゃん。これ、チョー有名な、日本代表のパスだぞ~」

「こいつにはオーバーハンドバスでじゅうぶんなんだよ! つ~か、手はなせっ!」


 ヨウちゃんがバトンを奪い取ったから、あたしと誠の手は、串から抜けたおだんごみたい。


「うわはははっ!!  葉児って、やっぱ器ちっちゃ~! 和泉とオレの手が引っついたから、怒ってんだ~っ!! 」

「うるさいっ!! 」


 指導役の男子たちが、ぎゃ~ぎゃ~争いをはじめちゃったら、あたしたちどうしていいか、わからない。


「ま、とりあえず、パス練習しようか」


 有香ちゃんの提案で、あたしたちはいつも体育で習ってるパスの練習をはじめた。



「……でも中条って、いいやつだよな」


 ふいに、真央ちゃんがつぶやいた。


「え? 真央ちゃん、こないだヨウちゃんのこと、『釣った魚にエサやらない』ってダメ出ししてたよね?」

「あれは、からかっただけだって。あいつ、いじりがいあるから」


 あ……それは、たしかに。今も誠がヨウちゃんをいじって、遊んでる。


「中条って、惚れた女のこと、本当に大事にするよな」

「綾ちゃん、よかったね……」


 ふたりがしんみりと言うから、あたし、顔をあげて、まだぎゃ~ぎゃ~言い合ってる、ヨウちゃんと誠を見た。

 ヨウちゃん、しまいには、顔を赤らめて、ゲラゲラ笑ってる。


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