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3 ナイショの特訓
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しおりを挟む坂のてっぺんで待ってるヨウちゃんの横に、あたしふらふら座り込んだ。
「ヨウちゃん、ちょっとタイム。つ、つかれた……」
「十本目か。まぁ、こんなとこだな。きょうはこのへんにしとくか?」
「う……うん……」
「綾、急な座り込みはマズイ。体がおどろくんだよ。ほら、立ちあがって。軽くジョギング」
あたしの右腕を取って引き起こす、やさしい手。
で。
これって、なんて「アメとムチ」……。
ヨウちゃんちでシャワーを借りて、制服にきがえたら。ヨウちゃんのお母さんに、「綾ちゃん、朝ごはんは食べてきた?」って、きかれた。
「え? ロールパンひとつだけ。ママ、朝早くてまだ寝てたし」って答えたら、「じゃあ、朝練の間は、うちでご飯食べて行きなさい」って言ってくれて。
そんなわけで。今、あたしの目の前のテーブルには、ラズベリーと生クリームとミントのったワッフルとスクランブルエッグとサラダとオレンジジュースがならんでる。
キラキラ、朝ご飯は、生つばもの。おまけに、目の前にはコーヒーを飲むヨウちゃん。
朝日をあびる開店前の自宅カフェを、たったふたりの貸し切りで。ケルトミュージックのハープの音色が、ゆったりゆったり流れてて。
すごい……絵に描いたような天国……。
「おいしい~」
ふんわりワッフルの香ばしい味を口の中でたっぷり味わってたら、目の前のヨウちゃんのお皿に、ワッフルがないのに気づいた。
「あれ? ヨウちゃんは、食パンなの?」
「ああ。朝から甘いのはちょっとな……」
「……ふ~ん」
だけど、なんかひとりだけ、幸せを味わって悪いみたい。
「おいしいのに……」
「じゃあ、一口ちょうだい」
「ほぇ?」と顔をあげたら、ヨウちゃん、口をぱっくり開けてた。
ええっ!? それ、「口に入れろ」ってことっ!?
「綾、引くなよ。早く」
ヨウちゃんのほっぺたが、どんどんピンクに染まっていく。
「う、うん」
ワッフルを一切れ、フォークにさして。「あ~ん」。
って……う、うわぁ~っ!!
ほっぺたアツアツで、前を見たら、ヨウちゃんまで両手で顔を隠して、口だけもぐもぐ動かしてた。
照れるなら、やらなきゃいいのに……。
「……おいしい?」
「……てか、やっぱ、甘ぇ~……」
カウンターの中でケーキを焼いていたお母さんが、「ふふふ」って笑った。
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