ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 ナイショの特訓

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 カタカタとミシンを踏む音が、手芸部の部室にひびいてる。

 だけど、あたしはミシンの前で、ほおをふくらませて、むっつり。


「綾ちゃん。五時間目のこと、まだふてくされてるの?」


 後ろのミシン台から、有香ちゃんがあたしの顔をのぞきこんだ。


「だって、みんなして、あたしの了解も得ないで、リレーの選手に決めちゃうんだもん。有香ちゃんまで、黒板にあたしの名前書いちゃうし~」

「ごめんごめん。でも、ほら、わたしも出るしさ。女子ののこりひとりの枠も、真央に決まったんだし。痛み分けってことで」

「だけど~。あたしは、ふたりみたいに速くないもん~。先輩のお荷物の上に、全校生徒の笑いものにされるよ~」

「でもさ。それならなんで、中条は綾ちゃんを推薦したんだろ……?」


 ふり返ると、有香ちゃんはミシンの手をとめて、暮れてきた窓の外を見ていた。

 オレンジ色の空の下、校庭を誠たちサッカー部員が走りまわっている。


「綾ちゃんが速くないってこと、中条だってよくわかってるよね。わかってるのに、なんで綾ちゃんとやりたいなんて言ったんだろ? ただの、カップルがイチャつく口実には、わたしには思えないんだけど」


「……それは……」


 きのうの、あたしの部屋でのヨウちゃんの言葉が、よみがえってきた。


――おまえが『ない』って言うなら、つけてやるよ、自信。オレが、おまえを自信満々にしてやる――



「で、綾ちゃん、どう? クッションは、きょうで完成しそう?」


 有香ちゃんに言われて、あたしはハッとミシン台の上を見た。

 四十五センチの正方形の巨大な布が、だらんとたれさがっている。


「え? えっと……あとは、綿をつめて、口を閉じたら」


「そっか、よかった。文化祭までのこり一週間なんだから、そろそろあせらなきゃマズイよ。自主制作だけじゃなくて、来場者に配るコースターとしおりづくりもあるんだからね。ひとりノルマ、三十枚だよ」


「う、うんっ!」


 あわてて、ミシンを踏んで、また布をカタカタカタ。

 これ、文化祭で展示するあたしの作品。大きな正方形の中に、小さい正方形が、縦横九つ、合計八十一個入っている。つまり、パッチワーク。模様のちがうハギレを縫い合わせて、ひとつのクッションにしてるんだ。

 返し縫いをしてミシンをとめて、巨大な布をひっくり返す。

 裏返しになっていた模様が、パッとあざやかにあらわれた。


「わっ! 綾ちゃん、キレイっ! うん。色もカラフルで、模様もたくさんあって、いい感じ。早くアイロンかけて、綿つめちゃいな」


「……うん……」


 だけど、あたしは縫い合わせをながめて、ぼんやり。


「これ……なんかヤダ……。あたし……やり直す……」


「えっ  ちょ、ちょっと、綾ちゃんなんで? もったいないって」


 あわを食う有香ちゃんの前で、あたしは、糸切りバサミを手に持った。ちょんちょんと、ミシンの縫い目をほどいていく。


「だって……真ん中のガラが、手をつないでいる男の子と女の子の模様なのにさ。その横にも、また、人のガラが来てるんだもん」


「そんなの……クッションにはなんの関係もないと思うけど……」


「でも、あたしはヤなの。胃がイ~ってなるの。なんかちがう」


「う~ん。わたしにはそのこだわり、わからない……」


 有香ちゃんは頭を抱えてる。

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