ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 あたしの心の底のひび割れ

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「なにかあったって、あたしにはもう、ヨウちゃんを守ってあげられないんだよ。ヨウちゃんだって、もう、あたしのりんぷんなんか必要としてない……。ふつうにバスケして、ふつうに学校に通う、ふつうの男の子なんだから……。

あ、あたしたちは……前のあたしたちじゃないの……。あ、あたしたちをむすびつけてる、ナイショの魔法は消えちゃったっ!! 」


 涙でかすんで、なんにも見えなくなった。

 あたしはうわっと、泣き出していた。


 子どもみたい……。


 泣き方がガキ。どうしようもないことに、駄々をこねるのが、ガキ。

 あたしみたいなガキ、ヨウちゃんにはふさわしくない。



 ふわっと、肩があったかくなった。

 ヨウちゃんの両腕が、あたしの肩を包み込んでいた。ほおにふれてる、ワイシャツの胸。


「……やっぱ、そういうことなんだな……」


 ヨウちゃんの声、かすれている。


「……綾、ごめん。オレは羽といっしょに、綾の自信まで切りはなしてしまったんだ……。『羽はあたしの自信』だって、綾……ずっと言ってたのにな……」


 ……ヨウちゃん……。


 ひっくひっくとしゃくりあげるあたしの肩を、大きな腕がやさしく包んでくれる。まるで、花束でも抱くように。

 ぐいっと、肩を引かれた。

 ヨウちゃんは身をかがめて、あたしの視線に自分の視線を合わせた。

 ドキッとした。琥珀色の瞳に、するどい光が宿っている。


「綾、いいか? よくきけ! オレは、あきらめない。オレは、こんなかんたんに、綾を失わない。おまえが『ない』って言うなら、つけてやるよ、自信。オレが、おまえを自信満々にしてやる。『ヨウちゃんの横はぜったいにゆずれない』って、言わせてやる。そんで綾に、オレの愛をまるごと認めさせてやるからっ!! 」








 トントンと、部屋のドアをノックされた。

 ヨウちゃんが、あたしの肩から手をはなす。


「綾、葉児君? 夕飯の準備できたから、おりてきなさい」


 廊下からママの声。


「あ……は~い……」


 あたしは手の甲で、涙でぬれたほおをごしごしとぬぐった。

 ヨウちゃんはもう、なんにもなかったみたいな無表情になって、きびすを返してる。

 ドアを開けると、ママが廊下の壁にもたれていた。足を交差させて立って、腕を組んで。


 ……きいてた? ママ……?


 ヨウちゃんはママに、ぺっこり頭をさげた。


「もう遅いんで、このまま帰ります。せっかく、オレの分まで夕飯を準備してもらったのに、すみません」


「……え? あらそうなの?」


 顔をあげたヨウちゃんは、「あ」とつぶやいて、あたしをふり返った。


「綾、言いわすれてた。――親は親。綾は綾なんだから、考え方はちがっていてもいいんだよ」


 トクン。

 心臓が鳴った。

 ヨウちゃんがママの横を通り抜ける。ワイシャツの広い背中が、トントン階段をおりていく。

 腕を組んで、ヨウちゃんを見送って。ママが、ふっとほほえんだ。


「まさか、ケンカを売られるとは、思わなかったわ」




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