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2 あたしの心の底のひび割れ
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しおりを挟む「……ヨウちゃん?」
あたしはごくっとつばを飲み込んだ。
「なんでヨウちゃんが……うちにいるの……?」
だって、目の前に見えているものが、信じられない。
あたしのうちのリビングで、ヨウちゃんがママと向かい合ってソファーに座っている。
制服姿のあたしを見あげて、ママはふっと笑った。
「――綾、葉児君を部屋に呼んであげたら? 葉児君、たまにはうちで夕飯食べて行きなさいよ。オールデパ地下食材で悪いけど。多く買ってきすぎちゃったのよね」
「……はぁ」
ママの声に押されるようにして、ヨウちゃんが立ちあがる。ヨウちゃんも目がぼんやりしていて、ここに自分がいることをあんまり自覚できてないみたい。
ママひとりが、すっきりとした顔で、ダイニングの上のナイロン袋を開けはじめている。
なんで……?
ママ、ヨウちゃんを嫌ってたんじゃないの……?
リビングから出て、自分の部屋へ階段をのぼっていくと、後からヨウちゃんがついてきた。
「綾、勝手に来てごめん……。おまえのお母さんに誘われたんだ。すぐに帰るつもりだったんだけど……」
「う、ううん」
首を横にふりながら、あたしは肩にかけたスクールバッグの取っ手を、ぎゅっとにぎりしめた。
どうしよう……あたし……さっきまで誠と……。
自分の部屋のドアノブを押して開けて、部屋の電気をつける。
朝出たときからかわらない自分の部屋が、蛍光灯に照らされた。
窓際のベッド。ハート形の目覚まし時計。うすピンクのラグを敷いていて、その上に真央ちゃんから借りた少女マンガやファッション雑誌が散らばってる。
「わわっ!? ちょ、ちょっと待ってっ!」
あわてて、散らかった本を抱えて、勉強づくえにドンと重ねる。
ヨウちゃんが視線を向けてるほうを見たら、ベッドのかけぶとんの上にパジャマが放置。
「ひょえ~っ!! み、見ないで~っ!」
あわてて、ベッドにとんで行って、パジャマを丸めて、ピンク色のふとんの下に隠して。
サイアクっ!
まさか、カレシにきょう、部屋に入られると思ってなかったからって。あたしってば、手抜きすぎ!
「……綾さ。今まで、誠んとこの児童館行ってたの……?」
ハッとして、顔をあげた。
カーテンをまだ敷いていない窓ガラスに、部屋のようすがうつりこんでいる。
ヨウちゃんは、制服ズボンのポケットに両手をつっこんで、足元を見つめてる。
「あ……うん……」
あたしはシャッと、ピンク色のカーテンを閉めた。
「誠に頼まれたの。人手不足でこまってるって。それで、しかたなく。お月見会したんだけどね。小学生がいっぱいで、まとめるのたいへんだったよ。
誠とふたりでゆっくり話すヒマなんて、ぜんぜんなくてね。ホント、もうバッタバタで。事務員さんに、『あれやって』『これやって』って。それを『はい』『はい』ってきいてくので、せいいっぱいで……誠とはなにも……。まったくちっとも……」
背中から、ヨウちゃんのため息がきこえた。
「……なるほど。ムキになられれば、なられるほど、不安になるもんだな」
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