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2 あたしの心の底のひび割れ
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しおりを挟む「だからぁ~、葉児君のカノジョの座を奪いたいとか、そういう話じゃないんだって~」
卯月先輩は、長い髪を耳横にかきあげて、口の中で笑っている。
「わたしは単純に、本の話をできる人がほしいんだよ~」
中央階段の屋上へ向かって、のぼっていったところにある踊り場。
たしかにここまで来ると、休み時間をすごす生徒たちとも行きあわない。オレの後をつけてきた野次馬の男子どもも、こちらがにらみをきかせると、あわてて教室に逃げもどっていった。
「わたしが今、クラスでつるんでるのって、そんなに本を読む子たちじゃないんだよね。ファッション系の雑誌やスマホのメルマガは読むけど、ほかは~みたいな。
そりゃ、クラスメイトにも読書が趣味な子だって、いるんだろうけど。ほら、ジャンルってものがあるじゃない。葉児君みたいに、同じジャンルで話を共有できる人って、貴重なわけよ」
踊り場の壁に背中でもたれて。オレは息をはきだした。
「そんなの、こっちは知ったこっちゃないんですけど。オレはとくに、人と感想を共有したいほうじゃないんで。そんなに話したいなら、SNSにでも書き込んでればどうですか?
とにかく、オレにまとわりついて、綾にカンちがいさせるような行動するの、ホントやめてください」
「って、言われてもな~。葉児君のクラスに行けば、あの子がいるしさ~。図書室には、葉児君、あれ以来、来てくれないし。放課後、外で待ってたら、あの子といっしょに帰ってくるし。直接、家に行けば、あの子が来るし~」
「だったら、先輩がオレに関わんなければい~んじゃねぇの?」
思わず、毒が出た。
先輩がまばたきして、オレを見つめる。
「……そんなに、カノジョが怖い?」
「……え?」
「いや、だってさ。ふつうでしょ? 女友だちがいるのくらい。やましいこともしてないのに、葉児君て、なんでそんなにカノジョの顔色うかがうわけ? そういうの、束縛っていうんだよ? 人の人間関係にまで口を出して、束縛してくるようなカノジョ、必要なくない?」
「そんなこと……」
「ちがう」と思いながらも、もやもやしていた理由が、わかったような気がした。
綾はなんで、あんなかたくなに、オレを信用しないんだ……?
いや、先輩はオレの元カノなわけだし。オレ、今まで女友だちをつくってこなかったし。
きのうなんて、いきなり、オレの家から先輩が出てきたわけだし。
綾が不安になるのも、わからなくはない。
けど……最近、オレはずっと……あいつに気持ちを伝えてたのに……。
「ねぇ、あの子ってさ。そんなに価値があるの? はたから見てると、いつもただ、葉児君に引っぱられて、歩いてるだけみたいなんだけど。
恋愛感情ってさ、今はもりあがっていても、そのうち落ちつくものでしょ? お互いに飽きても、それでも、ずっといっしょにいられるのって、やっぱり自分と趣味の合う人なんじゃない?」
オレは、耳に人差し指をつっ込んで、ハァと息をはきだした。
「あのさ、先輩。なにをカンちがいしてんのか知らないけど、オレの一番の理解者は、綾だから。オレが学校でだまってるようなことも、綾は、ぜんぶ知ってるから」
「じゃあ、葉児君は、逆に綾ちゃんの秘密を知ってるの?」
ああ言えば、こう言うだ。
先輩は、ピンク色のグロスを塗ったくちびるをきゅっとあげて、笑っている。
「自分のことばかり言って安心してるけど、葉児君は、あの子のことで、知らないことがいっぱいあるんじゃない? 女の子ってけっこう奥が深いんだよ」
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