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2 あたしの心の底のひび割れ
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教室の窓際の一番後ろ。自分の席にほおづえをついて座って。
オレは、廊下側の一番前の席へ、目をこらす。
そっちは日が当たらずに、うす暗い。さらに、目の前をクラスメイトたちが行きかうから。たれ目の綾の横顔が、今、どういう表情をしているのかわからない。
よりによって、こんな席。
教室の対角線上。はじとはじ。
けど今は、くじ運の悪さより、きのうの自分の行動のほうが、うらめしい。
ヤバイ……。綾と話せない……。
なんでオレ、きのう、卯月先輩をもっと早く追い出さなかったんだっ!
とつぜんハイテンションで、カフェに入ってきた先輩は、オレの顔を見ると、ためらわずに二階にのぼってきた。本をさしだして。「読んで」って。
「追い出せ」という感情が、すぐに脳みそにのぼってこなかったわけは、あの卯月先輩の愛読書だっていう本が、けっきょくオレも気になってしまったからだと思う。
おもしろい本だということは、わかっていた。
この前、図書館で借りたケルトの伝説を、さらに掘り下げたような本。
だから、反応が遅れた――。
休み時間をもてあましていた男子たちが、ざわついている。
見ると、教室の後ろのドアに、見慣れない女子が立っている。
卯月先輩っ!?
オレと目が合うと、グロスを塗ったくちびるがふっとほほえんだ。
「葉児君、ちょっと~」
白くて長い指で、ちょいちょいと手招き。
おそろしい……。執念深い白蛇みたいだ。こんなとこまで……。
クラスメイトたちが、ざわざわとこっちをふり返っている。
廊下側の一番前の席で、綾もふり向いた。河瀬が綾になにかを話しかけて、綾がそれに答える。永井も綾に話しかけている。
綾の目はもう、オレを見ない。
きのう感じた、あの感覚と同じだ。
バカみたいにありったけの感情をぶちまけたオレに、綾の声は冷めていた。
伝わらない……。
言葉にしても、すかされて、宙に消える。
なかったことにされてしまう……。
「……先輩。なに、人のクラスに来てるんスか?」
しかたなく立ちあがって、教室を横断すると、先輩はにっこりと笑った。
「そりゃあ。本の感想をききたいからに決まってるでしょ? 葉児君、少しぐらい、読んだ? どこまで読んだ?」
「……読んでません。つ~か、読む気ありません」
「え~? ぜったいおもしろいのに」
「そのまま返しますから、ちょっと待っててください」
ロボットのように言うだけ言って、本を取りに教室にもどりかけると、「あ。じゃあ、屋上の階段とこいるね」と声が返ってきた。
「いや~、ほら、ここにいるとわたし、めだつしさ。葉児君もわたしといるとこ、見せたくない人がいるんでしょ」
なら、来んなっ!
のどから出かかった声を、必死で飲み込む。
感情的になっても、この人には無意味だ。
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