566 / 646
1 むすびつきのないカップル
7
しおりを挟むヤダ……こんなのヤダ……っ!
涙がぼろぼろとこぼれてくる。
それなのに、頭のずっと奥で、冷めている自分がいる。
――やっぱり、こうなるんだね――
冷めたあたしは、片口だけあげて、ニヒルに笑ってる。
あたしみたいなお子ちゃまが、ヨウちゃんとつりあうわけない。
ヨウちゃんは、卯月先輩に目うつりした。
それだけのこと――。
ヨウちゃんの横から廊下に飛び出そうとすると、ぐっと手首をつかまれた。
「綾っ!」
バタンとドアが閉まる。
あたしを部屋に入れて、ヨウちゃんがあたしの背中を壁につけて、通せんぼする。
とたんに、ぎゅっと硬い胸を、あたしの胸に押しつけられた。
「……浮気……してない……」
ヨウちゃんの声が耳元からきこえてくる。
「……信じて……」
こういうのムリ。力いっぱい抱きすくめられると、頭がぼーっとしてきちゃう。
「じゃあ……なんで……先輩の本がヨウちゃんの部屋にあるの……?」
「さっき、先輩が……勝手にあがってきて、勝手にオレの部屋に入って……置いてった……」
「ウソ……」
「ウソじゃねぇよっ!! あの人は、ああいう人なんだよっ! つきあってたころからずっと、あんなだよっ!」
ヨウちゃんが鼻をすする。
「け、けど……オレは本当になんもしてないぞ……。つきあってたころだって……先輩を抱きしめたことも、キスしたこともない……」
「だ……だって、カップルだったんでしょ?」
「仮面カップルだよ。お互いに役を演じてた。オレ……オレは……オレのことをおまえにわすれさせるために……。先輩には、先輩の事情があって……。そんなことより、あのころは苦しくて……。綾が……誠と仲良かったから……」
ズンと言葉が胸につきささった。
ヨウちゃんの手の甲が力を込める。あたしの肩を自分の胸に押しつけて、ヨウちゃんが声をつまらせる。
「抱きしめたかった……誠から、おまえを取りあげたかった……。綾は……綾は、誠となにやってんだって……毎日思って……考えて、眠れなくなって。キツくって……キツくって……心臓引きちぎれるかって……」
「……ヨウちゃん……」
「お、オレはおまえだけなんだよっ! 初恋もおまえだよっ! キスしたのもおまえだけだよっ!! ずっと、ずっと、オレは綾だけなんだよっ!! 」
すごいこと……言われてる……。
すごい愛をさけばれてる……。
ヨウちゃんの愛が、あたしの胸にズンズンつきささってくる。痛くって熱い。
「ヨウちゃん……わかったから、もうはなして……」
あたしはぐいっと、硬い胸を押し出した。
「あたし……きょうは帰るね」
「……綾っ!」
ヨウちゃんの腕が震えてる。
だけど、涙のたまった熱い目から、目をそらして、あたしはドアを開けて、廊下に出た。
胸の表面は熱い。じんじん熱い。
なのに、どうして……胸の芯は、冷え切っているんだろう……。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―
くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。
「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」
誰も宝君を、覚えていない。
そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『小栗判官』をご存知ですか?
説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。
『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。
主人公は小学六年生――。
*エブリスタにも投稿しています。
*小学生にも理解できる表現を目指しています。
*話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる