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1 むすびつきのないカップル
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しおりを挟む手芸部を終えて、校庭に出ると、空に月がうかんでいた。そういえば、十五夜はいつだっけ? 月がだいぶ、丸っこい。
有香ちゃんに「またあした」って、手をふって、あたしは校庭をぐるっとまわった。校舎の横を通って、体育館へ。
体育館の後ろのドアが開いていて、女子たちの頭がわさわさと、街灯に照らされている。
ほとんどが、二年か三年の先輩たち。
「ちょっと、帰るんでどいてくださいっ!」
先輩たちをかきわけて、女子バスケ部員が出てきた。タオルでほっぺたの汗をふきながら、顔をあげたのはリンちゃん。ツインテールで猫目がカワイイ、うちのクラスのマドンナ的存在。
「あ、和泉さん」
リンちゃんは、あたしに気づくと、体育館の中をふり返った。
「中条く~んっ!! 和泉さんが迎えに来てるよ~っ!! 」
わ……。大声。
体育館をのぞきこんでいた先輩たちが、ざわっとあたしを見る。
だけど、リンちゃんはぜんぜん気にしないで、あたしに近づいてきた。
「男子バスケも終わったとこ。そのうち出てくるから、待ってなよ」
「あ、ありがとう」
「じゃあね、和泉さん!」
リンちゃんはにっこり笑って、走っていった。
リンちゃんは最近フレンドリー。ひがまれたりねたまれたりしていた、小学生のころがウソみたい。
やっぱり、他校にカレシができたからかな……。
背中でふわふわなびいているツインテールをながめていると、あたしの背中を通り越して、長い影が地面にのびた。
「綾、おつかれ。手芸部終わった?」
おだやかな低い声。
「ヨウちゃんっ!」
あたしは、へらっと笑ってふり返る。
体育館の照明が、ドアの入り口に立つ、琥珀色の髪を照らしていた。細身の長身に、バスケ部のユニフォーム姿。
ヨウちゃんはユニフォームのすそで、こめかみの汗をぬぐってる。
うわっ! 今、へこんだお腹、チラって見ちゃった。
だけど、ヨウちゃんおかまいなし。琥珀色の瞳からこぼれだす、キラキラ笑顔。
「あつ~。秋だっつうのに、汗だくだよ。運動しまくるの久々だから、体がなまってんな。綾、帰ろ」
「ねぇ、だれ?」
ドアの前に群がっていた先輩たちが、あたしを見おろして、わきをつつきあっている。
「カノジョだって。中条君の」
「え~? これがうわさの、同じクラスの?」
「元カノは卯月さんなんでしょ?」
「だいぶレベルがさがってない? 葉児君って、ロリコンなわけ?」
うう。陰口、本人につつぬけ……。
かこむ先輩たちを素通りして、ヨウちゃんが歩いてくる。ヨウちゃんにとっては、ファンたちはみんな、ただの森の木々みたい。
大きな左手がのびてきて、あたしの右手をぎゅっとにぎった。
あ……。
指を一本一本、あたしの指の間にはさみこんで、恋人つなぎ。
「わ~! 見た~?」
「見せつけてんじゃん? ヤなカンジ~」
先輩たちの声が後ろからきこえてくるけど、ヨウちゃんはやっぱり、無反応。
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