ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 むすびつきのないカップル

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「そうそう。ただ今、葉児のファンで、体育館が鈴なり状態」


 誠が、手芸部の部室の窓に外側から寄りかかって、ぺらぺら話してる。

 うちの花田中学校の手芸部は、校舎の一階にある。そんなわけで、校庭で活動していた誠たち一年のサッカー部員は、休憩時間になると、手芸部の部室の前にあつまってくる。


「さっき、基礎連でマラソンしてたときだろ? 外回りで学校の外周走ると、体育館の入り口が見えるからな。しっかし、あいつ、部活はじめても、チョーうぜーよな。少し顔がいいからって、ちょっとバスケしただけで、女子の注目あつめやがって」


 いかつい腰に手を置いて。細い目をムスッととがらせているのは、大岩。誠と同じ、サッカー部員で、あたしたちはクラスメイト。

 って言っても、花田中学は海と山にはさまれた田舎町にあって、一学年一クラスしかない。だから、同じ一年なら、みんなクラスメイトなんだけど。

 こんな状態は小学校から。つまり、クラスメイトは全員、おさななじみみたいなもん。


「まぁね~。中条は英国に亡きお父様を持つ、ハーフだからね。で、スポーツもできるときたら、そりゃ、先輩たちだって食いつくでしょう」


 あたしの横でほおづえをついたのは、有香ちゃん。さっきまで有香ちゃんは、ミシンの前で、文化祭で配るコースターを製作してた。でも、誠たちが来たから、休憩するみたい。


「和泉ぃ、負けないでよ?」


 顔をあげると、誠のくりくりの二重が、窓越しにあたしの顔をのぞきこんでいた。


 横に広がった丸い耳と、大きめの口。小学校のころは、「おさるさんみたい」で通っていた誠なんだけど、中学に入ったら、ぐんと背がのびた。

 今は、声がわりもすんで、声低い。それに、ワックスをつかって、髪の毛をつんつんとセットしている。サッカーコートで走りまわる姿は、「カッコイイ」って、ひそかに女子たちの間でうわさになってる。


「負けないって、なにが~?」


 へらへら笑ったら、有香ちゃんに「綾ちゃん」ってにらまれた。


「気を抜いたら、ファンたちに中条を取られるよってことっ!」


 黒縁メガネに、ふたつにむすんで胸元にたらした長い髪。有香ちゃんは、すらっと細い腰に手を置いて、知的なオネエサマみたい。


「……うん」


 ホントはわかってたんだけどね。誠が言いたかったこと。


 でもさ……。気を抜くも抜かないも……あたしみたいなのに、勝ち目があるのかな……?


 あたしはいちおう、ヨウちゃんのカノジョ。

 だけど、あたしは、チビ。もやしみたいにひょろひょろ。胸もぺったんこ。

 頭のてっぺんには、アホっ子丸出しの、アホ毛がくるんとそり返っていて。

 そのうえ、ドジで、運動オンチ。料理も絵も音楽も苦手。


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