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4 なくしたもの
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しおりを挟む「ねねっ! ヨウちゃん、ホント、なんかおかしいよっ!? 」
だけど、ヨウちゃんの手の甲は、なおもぎゅっと、あたしの腕に力を込める。あたしのほっぺたにふれてるヨウちゃんのほっぺた、真っ赤。なのに、とろんと目を閉じちゃってて。
後ろからきこえてくるヨウちゃんの心臓の音をききながら、あたしは浅山の山並みを見つめた。
あのとき……あたし、ヨウちゃんがいなくなるかと思った……。
もう二度と、こんなふうに、いっしょにいられないかと思った……。
それはたぶん……ヨウちゃんもおんなじ……。
「……ね、ヨウちゃん」
首を横に動かして、自分のほっぺたにふれてる、桃色のほっぺたと向かいあう。
琥珀色のまつ毛がまぶたを押しあげて、琥珀色の瞳があたしを見つめる。
あたしは顔を近づけて、ヨウちゃんのくちびるに、自分のくちびるをくっつけた。
ヨウちゃんはまた、目を閉じる。あたしの右手の指先を、左手でまとめてぎゅっとにぎりしめて。ヨウちゃんのくちびるが、あたしのくちびるに吸いつく。
音がとまったみたいだった。
透明な風がほおをなでていく。
やわらかくなった日差しが、遠い空からあたしたちの頭にふりそそぐ。
ヨウちゃん……。
……ヨウちゃん。
ヨウちゃんのにおいで、ヨウちゃんのぬくもりで、ヨウちゃんの感触で、胸が満ちていく。
「……綾、ストップ」
「……え?」
目を開けると、ヨウちゃんは口を手でおさえて、目をそむけてた。
「ちょっと……これ以上は、ヤバい……」
「え~? なにが~?」
ヨウちゃんの背中で、ガチャッと屋上のドアが開いた。
心臓がビク~っととびはねる。
「あ~、こんなとこで、イチャコラしてた~っ!」
見あげたら、誠。
「葉児、塚本(つかもと)先生が呼んでたよ」
「……なんだ? また、バスケ部の勧誘か?」
ヨウちゃんは、あからさまに眉をしかめて、イヤそう。もたもたと、あたしの肩をはなして立ちあがる。
「な~、葉児も、もういいかげん、なんか部活に入れば? 一年で部活やってないのって、葉児だけじゃん」
「ん~。まぁ、考えてはいるんだけどな。あ、綾。放課後、いっしょに帰ろ」
後ろ頭をかいていたヨウちゃんの目が、ふっとあたしにもどった。
「え? でも、放課後は手芸部だよ?」
「部活終わるまで、図書室で時間つぶしてるから」
「ええ~? ずっと?」
「ずっと」
ヨウちゃんてば、すずしい顔。
うわ……なんか、ものすごい愛され感が……。
「……わかった」
あたしに手をあげたと思ったら、すっと波が引くように無表情にもどって。ヨウちゃん、何事もなかったみたいに、ポケットに手をつっ込んで、階段をおりていく。
「なんか、すごいラブラブだね」
誠が、こめかみをかいた。
「……うん。よくわかんないんだけど、ヨウちゃんがなぜだか肉食系に変貌して……」
「葉児……あのとき、そうとう後悔してたからね。今、実行にうつしてるんだろな……」
「後悔……? 実行?」
「あはは。ま~いいじゃん。それより、和泉は体もう、だいじょうぶ?」
誠の視線が、あたしのアホ毛から、つま先まで移行した。
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