ナイショの妖精さん

くまの広珠

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「ねねっ! ヨウちゃん、ホント、なんかおかしいよっ!? 」


 だけど、ヨウちゃんの手の甲は、なおもぎゅっと、あたしの腕に力を込める。あたしのほっぺたにふれてるヨウちゃんのほっぺた、真っ赤。なのに、とろんと目を閉じちゃってて。

 後ろからきこえてくるヨウちゃんの心臓の音をききながら、あたしは浅山の山並みを見つめた。


 あのとき……あたし、ヨウちゃんがいなくなるかと思った……。

 もう二度と、こんなふうに、いっしょにいられないかと思った……。


 それはたぶん……ヨウちゃんもおんなじ……。


「……ね、ヨウちゃん」


 首を横に動かして、自分のほっぺたにふれてる、桃色のほっぺたと向かいあう。

 琥珀色のまつ毛がまぶたを押しあげて、琥珀色の瞳があたしを見つめる。

 あたしは顔を近づけて、ヨウちゃんのくちびるに、自分のくちびるをくっつけた。


 ヨウちゃんはまた、目を閉じる。あたしの右手の指先を、左手でまとめてぎゅっとにぎりしめて。ヨウちゃんのくちびるが、あたしのくちびるに吸いつく。



 音がとまったみたいだった。


 透明な風がほおをなでていく。


 やわらかくなった日差しが、遠い空からあたしたちの頭にふりそそぐ。


 ヨウちゃん……。

 ……ヨウちゃん。



 ヨウちゃんのにおいで、ヨウちゃんのぬくもりで、ヨウちゃんの感触で、胸が満ちていく。






「……綾、ストップ」


「……え?」


 目を開けると、ヨウちゃんは口を手でおさえて、目をそむけてた。


「ちょっと……これ以上は、ヤバい……」


「え~? なにが~?」



 ヨウちゃんの背中で、ガチャッと屋上のドアが開いた。

 心臓がビク~っととびはねる。


「あ~、こんなとこで、イチャコラしてた~っ!」


 見あげたら、誠。







「葉児、塚本(つかもと)先生が呼んでたよ」

「……なんだ? また、バスケ部の勧誘か?」


 ヨウちゃんは、あからさまに眉をしかめて、イヤそう。もたもたと、あたしの肩をはなして立ちあがる。


「な~、葉児も、もういいかげん、なんか部活に入れば? 一年で部活やってないのって、葉児だけじゃん」

「ん~。まぁ、考えてはいるんだけどな。あ、綾。放課後、いっしょに帰ろ」


 後ろ頭をかいていたヨウちゃんの目が、ふっとあたしにもどった。


「え? でも、放課後は手芸部だよ?」

「部活終わるまで、図書室で時間つぶしてるから」

「ええ~? ずっと?」

「ずっと」


 ヨウちゃんてば、すずしい顔。


 うわ……なんか、ものすごい愛され感が……。


「……わかった」


 あたしに手をあげたと思ったら、すっと波が引くように無表情にもどって。ヨウちゃん、何事もなかったみたいに、ポケットに手をつっ込んで、階段をおりていく。



「なんか、すごいラブラブだね」


 誠が、こめかみをかいた。


「……うん。よくわかんないんだけど、ヨウちゃんがなぜだか肉食系に変貌して……」


「葉児……あのとき、そうとう後悔してたからね。今、実行にうつしてるんだろな……」


「後悔……? 実行?」


「あはは。ま~いいじゃん。それより、和泉は体もう、だいじょうぶ?」


 誠の視線が、あたしのアホ毛から、つま先まで移行した。

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