ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 なくしたもの

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 体育館の壇上に、ひとりの女子がのぼっていく。

 さらさらゆれる黒いロングのストレートヘア。短いスカートからのぞく白い足は、スッとまっすぐで、細くて長い。まるでバービー人形の足みたい。


「花田中学校二年、卯月うづき文ふみ殿。あなたは県の読書感想文で、優秀な成績をおさめました。その栄誉をたたえ、ここに表彰いたします」


 うちの学校のお局って呼ばれてる校長先生が、しわの寄ったほおでほほえんで、「おめでとう」って賞状をさしだした。

 先輩はイカの手みたいに細い両腕をのばして、賞状を受け取る。それから、長い髪を胸にたらして、頭をさげる。




「さっき、表彰されてたのって、中条の元カノだろ~?」


 全校朝礼が終わって、ざわついた体育館で、真央まおちゃんがあたしに耳打ちした。

 真央ちゃんは男言葉をつかう。制服の紺のプリーツスカートから、にょきっとつき出た太ももは、ぱんぱんに太くって。ワイシャツのボタンをふたつも開けて、胸元から、真っ青のタンクトップをのぞせて。態度もワイルドで、男子みたい。

 だけど、天然パーマのボブ頭も、白いふっくらふっぺたもやわらかくって、とっても女の子だってことを、あたしはちゃんと知っている。


「うん。卯月先輩って、やっぱりキレイだね……」


「それにしても、県の優秀賞って、なかなか取れないよ。あの人、頭もいいんだ……」


 有香ありかちゃんもあたしの横にやってきて、自分の細い腰に両手を置いた。

 有香ちゃんは一年女子の中で、一番背が高くって、頭がいい。黒縁メガネにすらっと長い足。知的なオネエサマみたい。


「有香ちゃんでも、頭がいいって思うなんて……相当だね……」


 男子の列の後ろをふり返って、あたしは目でヨウちゃんをさがした。

 体育館の後ろのドアから、三年生につづいて二年生が退場していく。最後はあたしたち、一年の番。


 ヨウちゃんは、大岩と何かを話して、笑っていた。ゲラゲラ、大口を開けて、能天気な笑顔。


 ヨウちゃんにとって、卯月先輩のことはもう他人事なのかな……?


 夏休みが終わって、九月に入った。

 いつも通りの毎日がはじまると、浅山であったものすごいことも、現実感をなくしていく。

 クラスメイトたちの最近の話題はもっぱら、十月の文化祭と、その次の日の体育祭。



「って、言っても、うちの文化祭は、高校みたいに盛大なやつじゃないらしいけどな~」


 お昼休み。あたしの席の向かいで、真央ちゃんがお弁当のミートボールを箸でつきさした。


「夏休みにやった研究レポートとか、美術の作品とかを、各教室で展示するくらいだってさ。メインは、文化部の活動公開。吹奏楽は、体育館で演奏会って言ってた。うちは、茶道部だから、部室で、お茶会するって」


「あ。あたしたちも今、文化祭の展示品縫ってる。三年の先輩はでっかいタペストリー刺繍してるよ。有香ちゃんも、コースターとかしおりとか縫ってるよね。あれって、展示品を見に来てくれた生徒に、先着順でくばるんでしょ?」


 教室の廊下側の列の一番前。あたしの席を、真央ちゃんと有香ちゃんでかこんで、お弁当タイム。

 二学期になって席替えしたら、こんな席になった。誠や、真央ちゃんや、ヨウちゃんとはなれちゃった。


「綾ちゃんも、自分の作品つくり終わったら、コースター縫うの手伝ってね。ひとりノルマ三十枚だよ」


 有香ちゃんが、ふたつにむすんで胸の前でたらした黒髪を押えながら、くるくる巻いたパスタを口に運んでいる。


「え~? そんなに縫えないよ~」


 あたしはおにぎりにかぶりついた。

 真央ちゃんは茶道部で、あたしと有香ちゃんは手芸部。普段はミシンで自分の好きなものを縫える、ゆるい部活なんだけど。今は文化祭準備で、いそがしいかな。
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