544 / 646
4 なくしたもの
34
しおりを挟む体育館の壇上に、ひとりの女子がのぼっていく。
さらさらゆれる黒いロングのストレートヘア。短いスカートからのぞく白い足は、スッとまっすぐで、細くて長い。まるでバービー人形の足みたい。
「花田中学校二年、卯月うづき文ふみ殿。あなたは県の読書感想文で、優秀な成績をおさめました。その栄誉をたたえ、ここに表彰いたします」
うちの学校のお局って呼ばれてる校長先生が、しわの寄ったほおでほほえんで、「おめでとう」って賞状をさしだした。
先輩はイカの手みたいに細い両腕をのばして、賞状を受け取る。それから、長い髪を胸にたらして、頭をさげる。
「さっき、表彰されてたのって、中条の元カノだろ~?」
全校朝礼が終わって、ざわついた体育館で、真央まおちゃんがあたしに耳打ちした。
真央ちゃんは男言葉をつかう。制服の紺のプリーツスカートから、にょきっとつき出た太ももは、ぱんぱんに太くって。ワイシャツのボタンをふたつも開けて、胸元から、真っ青のタンクトップをのぞせて。態度もワイルドで、男子みたい。
だけど、天然パーマのボブ頭も、白いふっくらふっぺたもやわらかくって、とっても女の子だってことを、あたしはちゃんと知っている。
「うん。卯月先輩って、やっぱりキレイだね……」
「それにしても、県の優秀賞って、なかなか取れないよ。あの人、頭もいいんだ……」
有香ありかちゃんもあたしの横にやってきて、自分の細い腰に両手を置いた。
有香ちゃんは一年女子の中で、一番背が高くって、頭がいい。黒縁メガネにすらっと長い足。知的なオネエサマみたい。
「有香ちゃんでも、頭がいいって思うなんて……相当だね……」
男子の列の後ろをふり返って、あたしは目でヨウちゃんをさがした。
体育館の後ろのドアから、三年生につづいて二年生が退場していく。最後はあたしたち、一年の番。
ヨウちゃんは、大岩と何かを話して、笑っていた。ゲラゲラ、大口を開けて、能天気な笑顔。
ヨウちゃんにとって、卯月先輩のことはもう他人事なのかな……?
夏休みが終わって、九月に入った。
いつも通りの毎日がはじまると、浅山であったものすごいことも、現実感をなくしていく。
クラスメイトたちの最近の話題はもっぱら、十月の文化祭と、その次の日の体育祭。
「って、言っても、うちの文化祭は、高校みたいに盛大なやつじゃないらしいけどな~」
お昼休み。あたしの席の向かいで、真央ちゃんがお弁当のミートボールを箸でつきさした。
「夏休みにやった研究レポートとか、美術の作品とかを、各教室で展示するくらいだってさ。メインは、文化部の活動公開。吹奏楽は、体育館で演奏会って言ってた。うちは、茶道部だから、部室で、お茶会するって」
「あ。あたしたちも今、文化祭の展示品縫ってる。三年の先輩はでっかいタペストリー刺繍してるよ。有香ちゃんも、コースターとかしおりとか縫ってるよね。あれって、展示品を見に来てくれた生徒に、先着順でくばるんでしょ?」
教室の廊下側の列の一番前。あたしの席を、真央ちゃんと有香ちゃんでかこんで、お弁当タイム。
二学期になって席替えしたら、こんな席になった。誠や、真央ちゃんや、ヨウちゃんとはなれちゃった。
「綾ちゃんも、自分の作品つくり終わったら、コースター縫うの手伝ってね。ひとりノルマ三十枚だよ」
有香ちゃんが、ふたつにむすんで胸の前でたらした黒髪を押えながら、くるくる巻いたパスタを口に運んでいる。
「え~? そんなに縫えないよ~」
あたしはおにぎりにかぶりついた。
真央ちゃんは茶道部で、あたしと有香ちゃんは手芸部。普段はミシンで自分の好きなものを縫える、ゆるい部活なんだけど。今は文化祭準備で、いそがしいかな。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~
狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。
そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。
「……わたしは、妖精が見えるの」
気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは――
心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる