ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 夢のあと

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「リズ」はとうさんの名前、「リース・ウィリアムス」の愛称。

 鵤さんのフルネームは、鵤ダグラスといって、日本に帰化したアイルランド人だ。鵤さんは生前のとうさんの友だちで、よく妖精の話をしたという。

 青い瞳で、鵤さんはゆっくりとうなずいた。


「リズの体はなぜだか、ヤドリギから透けて見えた。しかもね、腕がするっと、ヤドリギの中に入れるのさ。わたしの体は、チコリの魔力のせいで、ヤドリギの外に出られないというのに。

出してほしかったのだが、リズの体には実態がなくてね、わたしの手もつかめない。かわりに、わたしはリズといろいろな話をした。もちろん、葉児君のこともね。

それで……リズから葉児君へ、これをあずかってきた」


 鵤さんが、作業着のポケットから何かを取り出して、オレの手のひらにのせた。


「……種……ですか? ヒマワリの?」


 フェアリー・ドクターの魔力で虹色にかがやいている。


「たしか……中に物事の真実をこめられるっていう……」


「ふつう、フェアリー・ドクターの魔力は、妖精に関することにしか効かないだろう? けどね、このヒマワリの種には、妖精のりんぷんが、特定の分量だけふりかけられているそうだ。

フェアリー・ドクターの秘儀でね、このヒマワリの種は、人間同士にも、魔力を発揮すると言う。―今、この中には、リズの真実の心がつまっている」


「……とうさんの……真実の心……?」


 ドキンとして、オレはまた鵤さんの青い瞳を見あげた。


「葉児君、割ってみてくれ。リズは葉児君に伝えたいことがあるらしい」



 鵤さんは、ひざに手をついて立ちあがった。


「それでは、わたしは植物園に行ってくるよ。植物園に出勤するのは何日ぶりかな? 無断欠席をつづけていたから、バイトの子にしかられてしまうな」


 おどけたように肩をすくめて、鵤さんがドアを開けて出ていく。




 ドアが閉まり、静かになった室内に、窓越しのアブラゼミの声がきこえてきた。

 手の中で、平べったいアーモンド形の種が、虹色に光っている。

 つばを飲み込んで、オレは種をつまみあげた。人差し指と親指のつめの先に力を込めて、パキッと割る。


 中から、こぶしほどの虹色の煙があらわれた。


 煙はもくもくと広がって、人の頭ほどの大きさになり、さらに広がって、全身を包めるほどになる。

 その中に、ぼんやりと人影がうかびあがった。

 オレよりも背の高い、すらっとのびた足。茶色い背広。えりもとにはループタイ。

 中折れ帽子のすき間から、琥珀色の髪がのぞいている。



「……とうさん……」



 オレの声がきこえたように、とうさんはほほえんだ。

 深い彫。がっしりとしたあご。目じりにしわの寄った琥珀色の瞳で。



「……葉児。大きくなったな。立派な少年に育った。とうさんは誇りに思う」



 しんと低い声だ。腹の底にひびいてくる。


「ハグは、わたしの浅はかな行動が生み出してしまった、負の産物だ。わたしは……自分の失敗を、息子のおまえに背負わせてしまったことに、責任を感じている。すまない」


「……とうさん。けど、とうさんがタマゴを妖精から取りあげたのは、オレが『タマゴがほしい』って、ねだったからで……。大きくなってからだって、とうさんの体を勝手によみがえらせたり。オレは、めちゃくちゃやって……」

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