ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 それぞれの誓い

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「うわっ!? 」


 ヨウちゃんがリンゴの杖をふりまわした。

 蛇は、杖で寸断されるたびに、モヤになって散る。でもすぐにまた、黒い胴をとりもどす。


「きゃあっ!! 」


 あたしの右手首に、蛇が巻きついた。

 ぐいっと、ハグの方へ引き寄せられる。


「あ、綾っ!」


 ヨウちゃんがあたしの左手をつかんだ。

 だけど、ヨウちゃんの足や胴にも、黒い蛇がどんどん巻きついていく。Tシャツの胸をしめあげ、蛇はヨウちゃんの首にのぼってくる。


「ヨウちゃんっ!!」


 眉をしかめ、ヨウちゃんがうめく。あたしをつかんでいた手から力が抜ける。

 その瞬間、黒い蛇たちが、いっせいにあたしの体に襲いかかった。


「きゃあああっ!! 」


「あ、アグリモニー! 蛇の呪いをハグに返せぇっ!! 」


 誠の声!


 パッと、あたりに虹色の光が散った。

 ヨウちゃんとあたしにからみついた蛇が、光に吸い込まれて、一瞬消える。


 光がおさまると、蛇は出てきた方へうねりだした。

 鎌首を返し、暴れ踊りながら、ハグのもとへ突進する。


 バシバシ、バシバシっ!!


 蛇は、次々にハグのローブの胸にぶちあたっていく。


「ぎゃあああっ!! 」


 ハグがよろけた。地面にひざまずく。


 こ、こ、これは、呪い返しっ!


「ふたりともだいじょうぶっ!? 」


 だれもいない土の上から、誠の声がする。


「誠。ありがと……」

「た、助かった……」


 地面にガクンと腰をおとし、のどに手をあてて、ヨウちゃん、ハアハア息をついている。


「……なるほど、もうひとり仲間がいたか」


 黒いローブの老婆が、またもそりと体をもたげた。


「しかもそいつは、わたしのリンゴを盗んで、鏡の世界に入っているというわけだ。けれどわたしは、おまえを知っている。おまえは、この人間サイズの妖精にまどわされた、かわいそうな坊やだろう」


「……え?」


 ハッとした。

 地面の上に水たまりができている。

 ハグはうつむき、フードの下の何もない目で、水たまりの水面を見すえている。

 そこに誠の姿が映りこんでいた。オレンジ色のポロシャツを着て。ベージュの七分丈のカーゴパンツで。







「くくくくく……」


 黒いフードの下で、ハグが笑った。


「人間の坊やよ。おまえにとって、本当にこのふたりは味方なのか? 片方はおまえを誘惑しておきながら、おまえを捨てた。もう片方は、おまえの愛しい相手を取りあげた。なのにどうして、おまえはこのふたりについているのだね?」


「……そんなの、あんたみたいなヤツに話す必要ないし~」


 誠、強い! 友だちに嫌味を言われてすねた子みたいに、口をとがらせているだけ。


 パシャンと、水たまりの表面に水しぶきがあがった。

 ハグの長いローブのすそが、水たまりを踏みしめている。


「坊やよ、おまえが幸せになれる方法をわたしは知っている」


「誠っ!」


 背すじが凍えるように寒くなった。

 ハグのローブに、邪視の目が浮かびあがっている。

 その目からとびだしてきた黒い蛇たちが、今、黒い蜘蛛の巣のようにハグの体に張りめぐらされている。

 まるで、巨大な黒い羽根。呪いの蛇たちを組んで形づくられた、骨格だけの。


 黒い妖精っ!


 蛇の鎌首が一斉にあたしに向いた。


 ――え?


 とたん、まわりが真っ黒になった。

 あたしの体に襲いかかる無数の黒い蛇たち。


「きゃあああっ!! 」


 さけんだ口に黒い蛇の胴がつっこまれる。

 思考回路がとんで、あたしはズタ袋みたいに地面に倒れた。

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