ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 それぞれの誓い

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「……なんかすごい理屈だね」


 耳元で誠がささやいた。


「和泉、葉児。こんなヤツとまともな会話できないよ。あいつはただ、知識をつなぎあわせて、自分を正当化してるだけだもん」


「う、うん……」


 ハグに気づかれないように、あたしは小さくうなずく。


「葉児。こうなったらもう、和泉をハグにさしだしちゃってよ」


「は、はぁっ!? 」


 ヨウちゃんったら、大声をあげちゃった。


「きさまら、なにをこそこそ話してるっ!」


 ハグが、妖精の羽のついた杖をふりあげる。


「作戦など立ててもムダなこと。その小娘をわたさないなら、こちらからもらいに行くまで」


「いいから。オレの言う通りにして。和泉も、できる?」


 誠が、あたしの耳元でひそひそ。


「オッケ」


 あたしがにぱっと笑ったら、ヨウちゃんは「わかったよ」と息をはいた。


「誠の言うとおりにする」


 ヨウちゃんの左腕が、あたしのひざの下にまわる。

 と思ったら、ヨウちゃん、右腕をあたしのわきの下にまわして、ひょいっと、あたしを横抱きに持ちあげた。


「って、ええっ!?  まさかのお姫様抱っこっ!? 」


「動くなよ。ハグにやるっていったら、こうだろ?」


 一歩、二歩。ヨウちゃんがあたしを抱いて、ハグに近づく。

 わきの下にまわされた腕、小刻みに震えてる。


「ふん。急にものわかりがよくなったな」


 ハグの声がせせら笑った。

 黒いローブのそでぐちが、あたしの肩にのびてくる。

 ビクッと、あたし、体をかたくする。肩が、ハグのローブに引き寄せられる。


 瞬間、あたしは手をのばして、ハグのそで口からチコリのビンをむしりとった。

 ぶわっと、風が巻き起こる。

 風が、ハグとあたしをさまたげる。


「な、なにっ!? 」


 黒いローブをバタバタとなびかせて、ハグがたじろいだ。

 風を起こしたのは、あたし。

 ブルームの小ビンを片手に、左回りでまわりながら、アゲハチョウの羽を広げて、ヨウちゃんの腕から飛び立つ。

 あたしのつま先からキラキラ尾を引く、銀色のりんぷん。

 はばたくたびに、ピンと張られたチョウチョの羽が銀色に光る。


「綾っ!」


 誠の作戦通り! あたし、上空に急浮上。


「和泉ぃ、鵤さんはあの大きなヤドリギの中だっ!」


 誠の声に導かれて、オークの木の葉の中へ。


「きさまら! やはり、だましたなっ!! 」


 ハグの轟と、風の音。下にいるヨウちゃんと誠が不安だけど、今を確認してるヒマがない。

 木の枝が、風に踊ってる。からみついたヤドリギもぶんぶんゆれる。

 その中からきこえる金音は、きっと妖精たちの悲鳴。


 そうだった! ヤドリギの内側には、ゴースの針がつきだしてるんだった!


「ブルームさん。もう風をとめてぇ」


 ワンピースのすそを広げて、あたしはくるっと右回り。

 世界がふっと静まった。

 風がやんで、視界がクリアになる。


「ごめんね、怖がらせて」


 あたしはブルームのビンをポシェットにしまうと、かわりにハグから奪ったビンのコルクを開けた。


「チコリさん。ヤドリギの檻にかけられた鍵の魔力を解除して!」


 チコリの花の煮出し汁を数滴、ヤドリギの表面にかける。

 檻のようにからんだヤドリギのツルが、ぽうっと虹色にかがやいた。

 ツルに手をかけると、シルクみたいにするするとほどけていく。

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