ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 それぞれの誓い

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「なにこれ?」


「呪い返しの薬だよ。相手が呪いをかけてきたときに、これをかけると、相手に呪いをそのまんま返ししてやることができる。鏡の中に入ってしまったら、物理的な攻撃はできないからな。でも、これならつかえるはずだ。

綾は、レモンバームの塗り薬を持ってろ。もし、誠やオレになんかあったときのために。それから、妖精の羽を治すハナヤスリの葉」


 ヨウちゃんがさしだしてきた小ビンを、あたしはほいほい受け取る。

 うん。ポシェットぎゅうぎゅうづめ。


「それと、綾、ブルームの灰は持ってきてるな?」

「風を起こす薬でしょ? 持ってきたよ。あとね~、タオルにテッシュに。ケータイと、誠が見えるように、手鏡と~」

「オレも護身用と、儀式につかう薬をいくつか持ってるから」


 ヨウちゃんはめずらしく大荷物。あんまりカバンを持たない主義みたいなんだけど、きょうは別。


「葉児ぃ。で、その手に持ってる棒切れは、なに~?」

「これか? これは、リンゴの枝の杖。リンゴの実は、人を冥界につれていくだろ。枝も、銀の枝って呼ばれてて、ティル・ナ・ノーグと人間界をつなげる魔力があるんだ」

「へぇ~。すっげ~」


 誠は、フェアリー・ドクターの魔力の宿った虹色の杖を、まじまじと見てる。長くって、横枝を落としてあって、おばあさんがもたれかかるのに、ちょうどよさそう。


 ヨウちゃんは、その杖を、三人の真ん中につきたてた。


「綾、誠。誓いをたてよう」



「……誓い?」


 ヨウちゃんは、リンゴの枝の先を見つめて、ゆっくりと息をはきだした。


「オレはかならず、この戦いでハグと決着をつける。だから綾、この戦いが終わったら、羽を切ってほしい」



「……え?」


 ドキンと心臓が鳴った。

 琥珀色の瞳が動いて、あたしをとらえる。

 硬く閉じられた口。キッとつりあがった眉毛。


 ヨウちゃん……こないだの会議のあとで、言いたかったのはこのこと……。


「……わかった」


 あたしは、ごくんとつばを飲み込んだ。

 あたしから目をそらさずに、ヨウちゃんがうなずく。


「……葉児。和泉も、いいのかよ?」


「うん」


 そう言われる気はしてた。

 覚悟もできてる。ヨウちゃんさえ無事なら、あたしはもう、羽がなくなってもいい。


「誠、おまえもだ。鏡の世界に出入りするのは、きょう限りにしてほしい」


「え~?」


「あぶないんだよ。ふつうの人間が安易に出入りしていい場所じゃない。この戦いが終わったら、ファンタジーはわすれて、元の生活にもどれ。いいな?」


 誠はほおをふくらませて、うつむいた。


「……わかったよ」


「そして、これが一番大事なこと。オレたちは三人そろって、鵤さんをつれて、無事に下山する」


「うん!」


 あたしは右手のひらを、リンゴの杖の上に置かれた、ヨウちゃんの右手の甲に重ねた。


「ね、誠も」


「わかった。誓う……」


 誠の右手のひらが、あたしの手の甲に重なる。

 ヨウちゃんは、きつく目を閉じた。


「我々はこの誓いを守る。だから空よ、我々を守りたまえ」
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