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2 それぞれの誓い
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しおりを挟む木の葉の外で、雨が滝のようにふりそそぐ。
あたしはラベンダーの花束を抱えて、木陰に避難した。
「すごい雨……」
ぬれた前髪から、雨粒がたれてくる。
たったひとりでいると、浅山は広く、深く、果てしなく感じる。
ヨウちゃんが教えてくれた東の目印はここ、砲台跡。
地面が円状に開いていて、その真ん中に平べったいコンクリートの舞台がある。戦争中には、大砲を置いていたんだって。小学校のころ地域学習で習った、浅山に点在してる戦争遺跡のひとつ。
だけど、まわりをかこむツタを這わせた赤レンガの壁を見ていると、日本じゃなくって、ヨーロッパの古代遺跡に来たような気分になる。
あたしはコンクリートの上に、ラベンダーの花束をおろした。紫色の花が、麦の穂みたいに、先端で鈴なりになっている。
「ラベンダーさん。東の守りをよろしくね」
決戦の月曜日。あいにくの雨。っていうか、朝起きたときは晴れてたのに、この三十分間でザッとふりだした。
カサは持ってきてないし、このままふってたらどうしよう~。
雨にぬれた古びたレンガの壁は、水のにおいと、緑の濃いにおい。
ポシェットからタオルハンカチを出して髪をふいたら、首筋でボールチェーンがチャラとゆれた。
シルバーのネックレス。親指の先くらいの小さなアゲハチョウのチャームがついている。
きゅっと、右手のひらに包み込むと、胸がやわらかくなった。
だいじょうぶ。きっと、なにもかも、うまくいく。
あたしのお守り。去年のクリスマスにヨウちゃんからもらった、宝物。
半年前に切れたチェーンは、新しいチェーンと交換した。
「ヨウちゃんと誠のところに、もどらなきゃ」
耳元でザアザアいっていた雨音が小さくなったと思ったら、雨雲のすき間から、青空が顔を出してた。
水たまりをとびこえるたびに、白いレースのワンピースのすそが広がる。
霧雨の中、あたしは登山道を引き返す。
「和泉ぃ~! おつかれ~」
登山口までもどると、誠が手をふっていた。
横で、ヨウちゃんもふんわり笑ってる。
雲から顔をのぞかせた太陽と、ふりそそいできた朝の日差し。雨粒が、葉でキラキラ、ダイヤモンドみたい。
「ヨウちゃん、誠! ラベンダー、ちゃんと言われた場所に置いてきたよ~」
「オレも~。西にヒースを置いてきた~っ!! 」
オレンジのポロシャツに、ベージュの七分丈のカーゴパンツで。誠が、にっかりピースサイン。
「オレは北にバーベインを置いた。あとは、ここだけだな。南のペパーミント」
ヨウちゃんは見慣れたいつものかっこう。白いTシャツに細身のジーンズ。身をかがめて、手にしていた緑色の葉っぱの束を、登山口横の岩の上におろしてる。
「今の、すごい雨だったね~」
「和泉ぃ、ぬれなかった? 見て。オレ、スニーカーぐちょぐちょ。なんか縁起悪いな~」
「いや、縁起はいいだろ。ほら」
ヨウちゃんの指さす方を見たら、青空に大きな虹の半円ができていた。
「わ~……」
まぶしい。
くっきりあざやかな七色も。
それを見あげてほほえむ、琥珀色の瞳も。太陽の光を受けてる琥珀色のサラサラの髪も。
「さ~てと。オレはリンゴを食べて、鏡の世界に入るかな~」
ヨウちゃんの横で、誠がのびをした。
「誠、ちょっと待て。向こうに行く前に、これだけは持ってけ」
ヨウちゃんが、自分の黒いナイロンのナップサックから、小ビンをとりだした。ラベルに書かれた文字は「アグリモニー」。
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