ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 作戦会議

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「じゃあね~、結婚したら、あたし、ヨウちゃんちのカフェ、手伝いたい。ヨウちゃんは~、運動神経いいし、体育教師なんてどう? 花田中学の」

「……おまえ、地元で小さくまとまる気、満々だな」

「え~? ヨウちゃんは東京に出たいの?」


「いや……オレも……その夢でいい」


 ほっぺた赤いまんま。口をこぶしで隠して、ヨウちゃんがつぶやく。

 なんだか胸がくすぐったい。あたしは太い腕に、ほっぺたをくっつけて、くっくと笑った。

 じわじわ、じわじわ、アブラゼミ。


「ね、いってらっしゃいのチュ~と、おかえりなさいのチュ~は、ぜったいだよ!」

「なんだその、アホ夫婦は」

「い~んだもん。あたし、アホっ子だから~」


 ヨウちゃんからもらったショウガ湯は、すごくよく効く。つらい坂だって、息もあがらずにのぼりきれちゃう。

 てっぺんに、バラのアーチが見えてきた。生垣にかこまれた広いお庭に、丈や色や大きさのちがう、ハーブがおい茂っている。小さなピンク色のお花に、ポンポンみたいな紫のお花。トウモロコシの実みたいにいっぱいついている、青いお花。

 奥に三角屋根の家がのぞいていた。エントランスに続く小道のわきには、自宅カフェ「つむじ風」の立て看板。

 このメルヘンなおうちが、ヨウちゃんち。


「ただいま」


 玄関のドアを開けると、ヨウちゃんは、お客さんでにぎわう一階のカフェに声をかけた。

 あたしも「おじゃましま~す」って、カウンターの奥に向かってさけぶ。

 だけど、ヨウちゃんのお母さん、きょうはいそがしそう。「は~い。綾ちゃんいらっしゃ~い」って、明るい声がきこえただけ。


 書斎は、階段を地下におりた重たいドアの向こう。

 大きな窓が、南から西に広がっていて、木目のゆかに、日がさんさんと差し込んできてる。窓の外は、一面、青い水平線。


 ヨウちゃんちの家のつくりは少しかわってる。海にせり出した崖のとちゅうに、足場を組んで、家を支えている。

 カフェが一階で、二階にはヨウちゃんとお母さんの部屋。で、カフェの下に、ヨウちゃんのお父さんが生前つかっていた、この書斎がある。


「……あれ? 誠、いないよ?」


 あたしは、本のにおいのする書斎の中をキョロキョロした。

 東から北には、本だながそびえてる。分厚い背表紙はどれも英語。

 本だなの前に、社長のディスクみたいな大きなつくえが置いてあって、そこにはフェアリー・ドクターの薬ビンがズラッとならんでいる。

 薬ビンにまじって、ひとつ、小さなブリキ缶もちゃんとあった。多肉植物の綾桜。きょうも花みたいな葉っぱを、堂々と開いてる。


「おい、誠っ! なんかしゃべれ! 約束どおりに、綾をつれてきたぞ!」


 ヨウちゃんは部屋の真ん中につかつかと入っていって、腕を組んで仁王立ちした。


 視線の先は、だれも座っていないゆりイスなんだけど……。


「あはは。葉児、ごくろうさま」


 窓辺のゆりイスの上から、人の声がした。


「ええええっ!? 」


 この声っ! まだ完全に、声がわりを終えてなくて、ちょっとかすれた、この声!


「ウソ、誠っ!?  どこにいるのっ!? 」

「えへへ。和泉、さがしてみて?」

「誠、調子にのんなよ。――綾、鏡」


 ヨウちゃんが、親指をくいっと、全身鏡に向ける。
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