ナイショの妖精さん

くまの広珠

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 頭がぼ~っとして重たい。

 ベッドから起きあがって、自分の部屋から出て。家の階段をおりていくだけで、足がふらふら。


 あたし……いつからこんなに体が弱くなったんだろ……?


 自分ちの階段の上から三段目で、あたしは「はぁ~」としゃがみこんだ。

 明り取りの窓から、夏の日差しがふりそそいでくる。


 こんなにふらふらするのは、やっぱり、ハグにりんぷんをあげすぎたせい……?


 夏のはじめ、あたしは鏡の世界で、黒いウサギに会った。

 そのウサギさんはいっぱいケガをしていたから、治してあげようと思った。

 あたしは自分の背中から羽を出して、ウサギさんにりんぷんをあげた。だけど、ウサギさんのケガはちっともよくならないで。あたしの体力ばっかり吸い取られていって。

 気づいたら、あたしの妖精の羽は、先が丸まったまま、力が入らなくなってしまった。

 しかも、後で知ったのは……カワイイウサギさんだと思っていたモノは、ウサギに化けたハグだったっていう、つらい現実。


 妖精の体が弱くなったから、人間のあたしの体にも影響が出てきてるの?

 自分の体なのに、わからない。怖いよ……。


「……ヨウちゃん……」


 口からこぼれたのは、すがりつきたい人の名前。


「綾っ!」


 え? ええっ!?


 あたしは、手すりにすがりついて、立ちあがった。


 なんで、うちの中からヨウちゃんの声がっ!?


 体を起こして、二、三段、階段をおりると、うちの玄関が見えてくる。ママが、玄関マットに立って、あたしをにらんでいる。


「綾? なんで、おりてきたの? ぐあいが悪いんなら、上で静かに寝てなさい!」


 そんなに頭ごなしに怒らなくても……。


 あたしは、玄関がにぎやかだから、「なんだろ?」って、部屋から出てきただけなんだけど。


 ママは、キッとあがった眉に、くるんとカールしたまつげ。大きな目。

 マスカラにくちべにに、チークに、ネールアートにお化粧ばっちり。子育てママの雑誌でモデルをしてるくらい、自分磨きに時間をかけてる人。

 そんな人だから、あたしはいつも、「アホ毛を直して、しゃきっとしなさい。もっとオシャレして!」って怒られる。

 だけど今、ママが腹を立てているのは、あたしに対してじゃないみたい。

 うちの玄関に立っている人に対して。


「え? ヨウちゃんっ!? 」


 その人を、あたし、二度見した。

 琥珀色のサラッサラの髪。目も宝石みたいな琥珀色。中一にして、うちのパパと同じくらいに、背が高くって。細身のジーンズをはいた長い足。白いTシャツの胸。夏なのに日焼けしてなくて、色白の首筋に、ぼこっとまぶしい、のどぼとけ。

 クラスメイトのヨウちゃんは、あたしのカレシ。


「あたしに会いに来てくれたのっ!? 」


 めまいもわすれて、のこりの階段をかけおりたら、頭がふら~と横にゆれた。


「あ、綾っ!? 」


 ヨウちゃんの声が裏返る。

 足がもつれたと思ったら、あたしの目の前にくつだながせまってる。

 ママよりも早く、ヨウちゃんの手がのびてきた。大きな手のひらが、ガシっと、あたしの肩を支えてくれる。


「だいじょうぶか? 今、おまえのお母さんから、話をきいた。体調、悪化してるんだって?」

「へ~き、へ~き。心配しないで」


 なのに、ママは腕を組んで、ジロっとヨウちゃんをにらんでる。


「そうよ、葉児君。さっきお話ししたとおり、綾は悪化しているの。だから、今から外出なんて、とてもムリですから。さっさとお引き取りください」


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