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序
序
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七月の真昼の太陽が、山の外人墓地を照らしている。
中心にそびえるオークの巨木。
おいしげる葉の合間に、ヤドリギがいくつもからみついている。
鳥の巣のように。
球状の檻のように。
木の根元では、一羽の黒ウサギが、毛の中に隠れた黒い眼を光らせていた。
チチチチチ……。
空から、ひとりの妖精がおりてくる。
白いロングドレスをひるがえし。背中でかがやく、トンボの形をした銀色の羽。
背丈は、クローバーの茎程度。顔つきは、中学生くらい。長いウエーブのかかった金髪。白い肌に映える青い瞳。ツツジのおしべのように細い手足。
その妖精は、人間の中学生の少女から「ヒメ」と呼ばれている。
ヒメは、黒ウサギの前におり立つと、くちびるをかみしめて、手の中のビンをさしだした。
ビンの中には、虹色の液体がたっぷりと入っていた。これはある場所から盗んできたもので、それはいけないことだと、ヒメも理解していた。
だが、しかたがないのだ。黒ウサギがこう言ったのだから。
――おまえのきょうだいたちを救いたければ、チコリのビンを持ってこい――
チチチチチ……。
黒ウサギの両わきには、何人もの妖精たちが横たわり、羽をひくひくと動かしている。
妖精たちの羽には、虹色の針が何本もつき刺さっている。
「ごくろう」
黒ウサギの口元から、老婆の声がもれた。
と、ともに、ウサギの姿は、黒いモヤとなって、宙にかき消えた。
自分に何が起こったのか……ヒメにはよくわからない。
気づいたとき、ヒメはヤドリギの中にいた。
自分の羽にも、たくさんの虹色の針がつき刺さっている。
その針は、さらにヤドリギの檻の内側のいたるところから、トゲのようにとびだしていて、ヒメが身動きをすると、羽や体を刺すしくみになっていた。
チチチチチ……。
金色のやわらかな髪に顔をうずめて、ヒメは泣いた。
「助けて」という人間の言葉を、妖精は話せない。
チチチチチ……。
キンキンキン……。
チチチチチ……。
オークの枝の上空。ほかのヤドリギの内側からも、きょうだいたちの声がする。
小さく細くたよりなく。ただただ、助けを呼んでいる。
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