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6 おとなになるということ
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「――そうか。綾ちゃんが……」
オレが話し終わると、鵤さんは眉をひそめて、灰色のあごひげをなでた。
外人墓地には、アブラセミの声が充満している。
まるで、セミの声自体に熱があって、夏の暑さをシャワーのようにふりまいているんじゃないかとか、そんな錯覚までしてくるほどに。
「綾は、自分の体調がすぐれないのは、ハグにりんぷんを取られすぎたせいじゃないかと、話していました。オレも、そうだと思います」
綾の家を出て、すぐに鵤さんに電話した。オレの急な呼び出しに、鵤さんは快く応じてくれた。
「妖精は、りんぷんをつかいはたすと消滅する。たしかにりんぷんをつかいすぎたことが、人間の綾ちゃんの体にも影響しているのかもしれないね」
「妖精のりんぷんは回復しないんですか? 鵤さん、とうさんから何かきいてないですか?」
「う~ん。リズからきいたことはないんだが。わたしは何度か、夏の暑さで、羽が干からびたように丸まった妖精を目にしたことがあるよ。秋口には、ピンと張った羽にもどっていた。だから、ある程度は、回復するんじゃないかな」
「……そうですか。よかった……」
オークの木の幹に背中でもたれて、オレはゆっくり呼吸した。
やっと肺に、空気を大きく取り込めた気がする。
だいじょうぶだ。綾はそのうち回復する。
「ただ……葉児君。綾ちゃんの体調の悪化についてなんだが……本当にハグにりんぷんを取られたから、というだけなんだろうか?」
「……え?」
鵤さんは小さな青い目をしばたかせて、うつむいた。
「わたしはね。ずっと気になっていたことがあるんだよ。妖精の体の成長は、精神年齢とイコールだということは、きみも知っているよね。
だが、おとなの妖精は存在しない。それは、どうしてだと思う? 妖精は個体によって、成長の止まる時期がバラバラなんだが。なぜだか、おとなになる前に成長がとまってしまうんだ。
きみたちがヒメと呼んでいる、あの子が限度だろうね。だいたい中学一年か、二年か。それ以上に育った妖精を、わたしは見たことがないんだよ」
「……それが……綾となにか?」
木陰が、鵤さんの足元にまだらもようをつくる。
チチチチチ……。
上空でかすかに妖精の声がした気がして、オレは顔をあげた。
オークの葉にまぎれて、丸いヤドリギの塊が見え隠れしている。冬になって、オークの葉が落ちると、ボールのような姿をあらわすそのヤドリギは、今は、葉にまぎれていて、ともすると、存在をわすれてしまいそうになる。
「……綾ちゃんは、おとなになっていくよね。おとなになるにつれて、綾ちゃんの精神年齢もあがっていく。だけど、妖精はおとなになれない。綾ちゃんの中で、妖精の体と、人間の体の間にズレが生じていく。そのズレが、綾ちゃんの負担になりはじめているのかもしれない……」
「……そんな……」
地面がゆれた気がした。
「……じゃあ綾は……?」
「このままだと……いずれ、人間の綾ちゃんの体は、妖精の体に破壊される」
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