ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 おとなになるということ

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「……綾?」

「う、ううん。なんでもない」


 首をふって、また歩き出す。

 あのとき。ハグのためにりんぷんをつかったあと。あたしの羽は、先がピンとのびきらないで、丸まってた。

 あれからあたし、羽を出していない。だから、羽が治ったのかどうかわからない。


 だけど……妖精の体の影響が、人間の体に出ているんだとしたら……。


 家に向かう住宅街。一戸建ての家々の間のせまい道。

 小学生のころ、ママに「人前でいちゃつくの禁止」令を出されてたのに、今、あたし、ヨウちゃんの腕にもたれて歩いてる。


「……ねぇ、ヨウちゃん。きょう、うちにあがってくれる?」


「え……? えっと。あ、ああ……」


 ヨウちゃん、後ろ頭に手を置いて、うかない顔。


 ……こまってる。


 だよね。うちのママとパパ、ヨウちゃんのこと嫌ってるもんね。


 ヨウちゃんはなんにも悪くなくて、悪いのはぜんぶあたし。あたしがひとりで勝手にやったこと。

 なのに、何度あたしがそう言っても、ママもパパも耳を貸してくれない。

 ママなんて、あたしが誠とつきあいはじめたとき、すごくホッとしてた。

 だから、まだ話せてない。誠と別れて、ヨウちゃんとヨリをもどしたって。


「だいじょうぶ。今ね、うちに、だれもいないんだ。パパはもちろん仕事だし。ママもきょうは、撮影で東京。飛行機で行くから、帰ってくるの、夜になるって」


 赤い屋根にピンクの壁の、あたしの家が見えてきた。

 ヨウちゃんちみたいに、広い庭はなくて、コンクリートでかためられたガレージがあるだけ。

 腕をはなして、家の門を開けたら、横から人の気配が消えてた。


 ……あれ?


 見あげたら、ヨウちゃんはちゃんといて、あたしんちの前の通りにつっ立ってる。

 だけど、ヌリカベ? 今、頭の上にスズメが飛んでるけど、そのスズメがもし、おりてきて頭にとまっても、なんにも反応しなさそう。


「どうしたの? ママもパパもいないんだから、うちに来たって、気をつかうことないよ?」



「い、いや……それは、逆にマズイだろっ!! 」


「なんで?」


 今さらふたりきりで、緊張するような仲じゃないし。

 あたしは、ヨウちゃんの部屋にふつうに入ったよ?


「な、なんでって……。よ、世の中には、常識ってもんがあってだなっ! オレだって、ガキじゃなくて、中学生なんだから。親が留守のカノジョの家に、勝手にあがるとか……。そ、そ、そういうふしだらことは……」


 ヨウちゃんてば、こめかみから汗ダラダラ、ほっぺた真っ赤。

 わけわかんなくて、玄関の前でぼんやりしてたら、頭がまた、ふら~っと横にぶれた。


「うわっ!!  綾っ!? 」


 ヨウちゃんが、あたしの肩を支えてくれる。


「だ、だいじょうぶか? 倒れんな。わかった、部屋まで送る。おまえは早く横になれ」


「あ……ありがと……」


 もう、サイアク。話さなきゃいけないことがあるのに、あたしの頭、ぐらんぐらん。




 二階のあたしの部屋は、熱気がムッとこもってた。


「綾、冷房のリモコンはどれ?」


 ヨウちゃんが、ローテーブルから、エアコンのリモコンを取って、冷房を入れてくれる。

 体中の力が抜けて、あたしは自分のベッドに倒れ込んだ。


「ほら。親が帰ってくるまで、ちゃんと寝とけ。オレは帰るから」


「ま、待って……。あのね……。見てほしいものがあるの……」


 あたしは、重い頭を持ちあげて、また体を起こした。ベッドのふちに足をおろして座って、自分の背中から力を抜く。


 背中に、銀色の光の粉があつまっていく。

 光の粉は、銀色のアゲハチョウの羽の形にかわっていく。



「綾……どうした、それ?」


 ヨウちゃんのほおが震えた。

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