ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 長い長い夏休み

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「浅山全体を祭壇にした後、オレは、オークの木のまわりを、太陽の回る方向に九周まわる。そのあと、リンゴの枝で、木の根元をつく。そうすれば、ティル・ナ・ノーグの入り口が開くはずだ」


「ねぇ、ヨウちゃん、なんでリンゴの枝なの?」


「リンゴは冥界とこの世をむすぶもの。綾が食べたのも、『冥界のリンゴ』だっただろ? ――で、ハグを落として、すぐに、『巻きもどしの法』をつかって、入り口を閉じる」


「なんだよ、巻きもどしの法って?」


 きいたのは、誠。


「儀式を最後から逆に行っていくんだ。そうすると、時間が巻きもどる要領で、すべてが元にもどる」


「そっかぁ。そうすれば、ハグだけを冥界に落とすことができるんだね! でも、ヨウちゃん。ハグは今、どこにいるかもわかんないじゃん。そのハグを、どうやって、オークの木の根元までつれてくるの?」


「……あ」


 とたんに、ヨウちゃん、かたまった。


 あれ?

 今のが一番、単純な疑問だったんだけど。


「……まさか、葉児。儀式のことに頭がいっぱいで、どうやってハグをその場につれてくるかは、ぜんぜん考えてなかった?」


 誠、ヨウちゃんをじろり。


「う。け、けど……だからそれを、これからみんなで話し合ってだな……。なんとかこう、あぶなくない方法を……」


 ヨウちゃん、こめかみから汗がダラダラ。


 も~。ヨウちゃんてば、マジメすぎて、たまに肝心なことが抜けてるんだもん。


「和泉ぃ、葉児はけっこ~たよりないから、当日は、オレたちでがんばんなきゃだな~」

「うん。誠、がんばろ~ね! あたし、羽出して、空飛んじゃうよっ!」


 両手のこぶしをにぎってにっこりしたら、となりからヨウちゃんが「ちょっと待て」って、にらんできた。


「綾、おまえ、羽は封印したんだったよな? そもそもオレは、綾をハグに近づけるつもりはねぇぞ!」


「え~? なんでよっ! 今さっき、あたしにブルームのビンをあずけてくれたばかりじゃん~」


「たしかに、ビンはあずけたけどな。それをハグとの戦いに持って来いなんて言ってねぇから」


「えええ~? なにそれ! なんでよ、今さら~」


「わすれんなって、綾! おまえはハグに入られる格好の獲物なんだって! ハグに近寄ったらまた、体をのっとられるぞ」


「そうか……。綾ちゃんの体は、ハグにねらわれているんだよなぁ」


 鵤さんが眉をひそめて、あごひげをなでてる。その横で誠が身をのりだした。


「なんの話~?」


「だから、綾はハグにとって、りんぷんがいくらでも手に入る都合のいい入れ物なんだよ。一度それで、のっとられたことがある。ハグが今回もねらってくる可能性が高い」

「ふ~ん。それは、怖いなぁ。葉児が和泉に羽を封印させた気持ちも、わかるや~」

「え~っ!?  みんなして、ヤだよ~っ!!  また、前みたいにあたしだけ不参加だなんて、言わないで~っ!! 」


 あたしが涙目でわめいているのに、男どもったら、眉をひそめて考え込んじゃってる。


「けどさ。どっちにしても、ハグが今、どこでなにしてるのか、わかんないんじゃん?」


 誠がにぱっと、笑った。


「……え?」


「だったらさ。今、この場で、和泉が体をのっとられる可能性だってあるわけでしょ? もうこうなったら、いろいろ気にしててもしょうがないんじゃない?」
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