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5 長い長い夏休み
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しおりを挟むお茶室のトイレを借りて、廊下に出ると、梅色の着物姿の真央ちゃんが待っていた。
「綾、だいじょうぶ?」
「……うん。真央ちゃん、ありがと。いろいろ教えてくれて」
「ま、こういうことは、女子同士じゃなきゃな」
真央ちゃんが、ぽんぽんっとあたしの肩をたたいてくれる。
「きょうは、中条に家まで送ってもらって。親に話して。早く寝な」
「……うん」
「親、よろこんで、お赤飯炊いてくれるぞ」
赤いくちべにを塗った真央ちゃんが、いつものオトコマエの笑顔で、ニカっと笑う。
おめでたいこと……なんだろうな? よくわかんないけど。
初潮。
真央ちゃんは小五のときに、もう来たって言ってた。
「わ~ん。真央ちゃん~……。あたし、ヨウちゃんになんて話したらいいの~っ?」
だって、さっきあたし、お庭の真ん中で、「お腹がイタイ」って大騒ぎしたんだよ。
ヨウちゃんもオロオロしてたのに、理由を話さないわけにもいかないし。
「そんなん、フツウにぶっちゃけろよ。こういうことは、カレシにちゃんと話すべき! 綾が言えないなら、うちが言ってやるよ。来な。中条は縁側で待たせてるから」
あたしの手を取って、すたすた歩き出す真央ちゃん。
わ~んっ! 真央ちゃんてば、行動までオトコマエっ!
「で、でも、真央ちゃん。茶道部はいいの? 今、お茶会の片づけしてるんでしょ?」
「いい、いい。あとで、先輩に事情話せば、わかってもらえるから」
右に障子のならぶ廊下を歩いていくと、玄関の前に出た。
真央ちゃんの足袋が、立ちどまる。
あれ?
玄関の引き戸の前をあらためてみると、立ち話していたのは、橋本さん夫婦だった。ならんで、知らないおじいさんと会話してる。
橋本さんの奥さんは、橋本さんの腕にそっと手をそえている。たまに見あげてうふふと笑うおばあさん。それを見おろして、ほほえむ、首にしわいっぱいのおじいさん。
まるでちょっとしなびた、お雛様とお内裏様。「ふたりそろって一組」みたいな、おんなじ空気。
真央ちゃんは、まつ毛をふせて、うつむいた。
あ……。
真央ちゃん、「橋本さんのこと好きになった」って、ほっぺた赤くしてたのに……。
「あの……真央ちゃん……」
「あ、ああ。綾、とつぜん立ちどまってごめん。行こっか」
「……真央ちゃんは……へいきなの?」
それ以上はきけない。
胸、痛いよね。
好きな人が、別の人とラブラブなんて。
「あ~や。なに気にしてんの?」
デコピンされて「イタぁ」って目を閉じて。また開けたら。真央ちゃんは、ふくふくのほっぺたで笑ってた。
「自分と、うちを重ねなくって、いいから。うちはね、慣れてんの。だって、うちが好きになるのって、年上ばっかじゃん。たいてい、とっくに結婚してるんだよ。だいたい、うちみたいな子どもを、おとなが本気で相手にするわけないって」
「……真央ちゃん」
真央ちゃんはつけまつ毛をした目を細めた。天井の木目を見あげてる。
「うちのじいちゃんさ……すっげ~カッコイイお年寄りだったんだよ……」
「え? ……おじいちゃん?」
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