ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 セミの鳴く木陰で

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「チコリは、夏至の真夜中につんだ花でなければ、フェアリー・ドクターの魔力がかからない。つまり、来年の夏至まで、同じ薬はつくれないってことだ」


「え~? そうなの~?」


「なにぃ? 葉児ってば、オレたちが花火でもりあがってた晩に、こっそり、そんなんつくってたわけぇ?」


 誠、横目でじろり。


「う、うるせぇよ! その日しかつくれないって、本に書いてあったら、ふつう、ねらって、つくるだろ?」


 ヨウちゃん、たじたじ。


「でも、なるほど。奥が深くておもしろいや~。おんなじ薬で対になる魔法をかけられたり。別の薬で対になったりするんだね」


 誠って、本当にファンタジーが好きなんだ。目、キラキラでのりだしてくる。


「だから、魔法じゃなくて、フェアリー・ドクターの薬だって。そういうのは、種類によってかわってくるな。たとえば、綾を鏡の中の世界につれて行ったのは、リンゴだったけど、こっちの世界につれもどしたのは、インゲン豆。

ほかには……そうだな。バーベインの煎じ薬と、コットンのコショウのサシェも対になってたな。バーベインの煎じ薬は、報われない恋を忘れ去るけど、コットンとコショウのサシェをつかえば、失った恋を復活させることができる。そうやって、まったくちがう植物が、対につかわれる場合が多い」


「……へぇ~」


「ねぇ、和泉。今の、きき流しちゃってよかったの?」


 誠が、あたしの肩をつついた。


「ほぇ?」


「和泉ってさ~。一時期、葉児との記憶、失ってたじゃん。そのときって、葉児もいっしょに和泉の記憶、失ってたでしょ。あれさ……和泉が記憶を思い出したとき、葉児に何された?」


「……え? えっと……サシェをわたされて……。中身はなんだっけ……コットンと……コショウ?」


 バッと、ヨウちゃんが、後ろにのけぞった。顔、真っ赤。


「あはは。ビンゴ。なかなか、おもしろいや」

「ま、誠! おまえは気づいても、だまっとけっ!」

「やだよ~! へ~。葉児も飲んだんだ~。バーベイン。で、和泉との記憶をなくしちゃったんだ~。か~わいそ~。でもなんで、和泉の記憶だけ、なくしたんだろ~ね~?」

「誠っ!! 」


 耳まで赤くして、誠の口をおさえにかかる、ヨウちゃん。

 鵤さんは、あきれはてて笑ってる。


「いいねぇ。若い子は」

「いや、よくないから! ちっともよくないですからっ!」


 あわてふためくヨウちゃんを見て、「あはは」って笑ってたら、なんだか、目に涙がたまってきた。


 ……そっか。ヨウちゃんもおんなじだったんだ……。

 あたしがつらかったときに、ヨウちゃんも、ものすごくつらかったんだ……。

 だったらいっそ、「こんな感情なんか、なくしちゃえ!」って思ったの?


 あたしの手の甲に、ぽろっと涙が落ちた。


「……綾?」


 ヨウちゃんが息を飲む。

 みんなの声が消えたとたん、ジワジワとセミの声が外人墓地を支配した。


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