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4 セミの鳴く木陰で
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しおりを挟む……暑い。
汗がだくだくと背中を流れていく。
息はぜえぜえ。頭、くらくら。
あたしの先で、登山道をのぼりながら、ヨウちゃんと誠が、ならんで会話している。
「じゃあ、ここにいる妖精たちって、二歳児くらいのから中学生くらいの間まで、年齢がいろいろなわけ? でもそれって、おかしくない? 葉児の話だと、葉児のとうちゃんがイギリスから持ち込んだタマゴで、みんなおんなじ時期に生まれたんだろ?」
「そうなんだけどな。調べたら、妖精の場合、見かけイコール精神年齢らしい。心が育つと妖精の体も、どんどん育つんだとか。ただ、個人差があって、一定の年齢になると、たいていの妖精は、精神年齢がそこでストップするとか」
「へ~。なら、おとなの妖精はいないわけ? 一番大きい子って、オレらと同じくらいの年なの?」
「それくらいだな。おとなは……いないらしい。ハグみたいな例外は別として。理由はよく、わからねぇけど」
ヨウちゃんが、ぼんやりと首をかしげる。
「おとなになる前に、年齢がストップする生き物なんじゃねぇ?」
「え~? じゃあ、和泉の場合は~?」
誠がチラッとふり返った。
……え? あたし……?
「今の和泉はさ、妖精になっても、見かけは人間の年齢とかわんないじゃん。でもさ~、人間の和泉がおとなになってから妖精になった場合、中身の妖精は子どものままで、和泉の姿も子どもにもどるのかな~?」
「どうだろな? 精神年齢が子どものままでストップすれば、そうなるかもな」
ヨウちゃんってば、ニヤ笑い。
「それ……ひどい~……」
「ウソだよ。まぁ、んなこと言ったって、オレら、まだ十三だぞ。おとなって、例えばハタチだとして、あと七年も先のことだから。そのときのことは、そのときにならないと、わかんねぇな」
……七年先……か。
そのとき、あたしは……。
ヨウちゃんは……誠は……。
どこで、なにをしてるんだろう……?
汗が目に入って、視界がかすんだ。
……あれ?
ふらっと頭がゆれた。
なんだろ? 地面がどこにあるのかわからない。
「あ、綾っ!? 」
ヨウちゃんの声が耳元でした。
「綾ちゃん、だいじょうぶかい?」
ぼんやりと開けた目に、おじいさんの、まん丸い顔がうつりこんだ。
頭はつるつるで、耳の横にだけ、灰色の髪がのこっている。
灰色のくちひげ。しわにかこまれた、サファイアみたいに青い瞳。
「……鵤さん」
あたしは「あれ?」と体を起こした。おでこが冷たいと思ったら、ぬれたタオルが置かれてる。
頭上でセミが鳴いている。あたしのまわりは大きな日陰。
見あげると、巨木がそびえてた。おい茂った葉。広がった枝は、空に両手をふりあげて、葉を支えてる。
その枝の上の方をよく見たら、丸い塊がいくつもからみついている。
鳥の巣みたいな、巨大なマリモみたいなあれは、ヤドリギ。
ってことは、オークの木。根元には、かまぼこ状の石や、十字架がたくさん、芝生から生えている。
「……ここ……外人墓地……?」
「そうだよ」
鵤さんがほほえんだ。
水色の作業着に丸いお腹。鵤さんを見ていると、白雪姫の小人さんを思い出す。鵤さんはアイルランド生まれ。日本に帰化した、「鵤ダグラス」さん。
「びっくりしたよ。綾ちゃん、とちゅうで気を失って倒れたんだって? 葉児君が背負って、ここまで運んできてくれたんだよ」
「えええっ!? そうだったんですかっ!? 」
ヨウちゃんがあたしをっ!?
って。せっかくの、胸キュンシチュなのに、ぜんぜん覚えてない。
あたしは上半身を起こして、あらためてまわりを見まわした。
ここのお墓は、日本の墓石とは、形がちがう。平べったくて、かまぼこ型やホームベース型をしている。
刻まれた文字も横文字。
小学校のころ先生にきいた話だと、このお墓に葬られるのは、大昔に、花田港で亡くなった外国の船員さんや、日本に住んでいた外人さんたちなんだって。
「わたしは、ここの無縁仏の管理をまかされていてね。たまに掃除に来ているんだよ」
鵤さんがほほえんだ。
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