ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 セミの鳴く木陰で

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 ヒメは、妖精。中学生くらいの女の子で、白いロングドレスを着ていて、ふわふわパーマの金髪で。青く澄んだ目。浅山の妖精たちの中では、一番のおねえさん。


「なんで、ヒメが……?」


「わからない。だからこの機会に、理由をさぐるぞ」


 ヨウちゃんは、ジーンズの右ポケットをさぐって、中からオークとホーソンとアッシュの枝の入ったビンを出して見せた。

 これ、妖精を呼び出すお香。

 きょうは、夏休みに入ってはじめての日曜日。

 誠のサッカー部も、あたしの手芸部も休みの日。だから誠に、妖精を見せてあげるって約束してる。

 ヒースの茂みの中に、古びたレンガ造りの建物が見えてきた。第二次世界大戦の戦争遺跡の砲弾倉庫跡。赤レンガをつんだ壁にならぶアーチ状の入り口は、日本じゃなくって、ヨーロッパの遺跡に来ちゃったみたい。

 その入り口ひとつひとつにうす暗い部屋がある。今は、がらんどう。昔は、大砲の弾なんかが置いてあったんだって。



「うわ~、ヤダね~! なんなのこの、イチャイチャカップル」


 レンガの壁の向こうから、ひょいっとやせた男子がとびだしてきた。大きな丸い耳にくりくりの目。


「ま、誠っ!?  もう来てたのっ!? 」


 あたしはパッと、ヨウちゃんの腕から手をはなした。


「そりゃ~オレ、きょうをチョー楽しみにしてたんだもん。集合時間の三十分前から、スタンバってたよっ!!」

「おまえ、それは、早すぎだろ!」


 にっかりVサインの誠に、あきれ顔のヨウちゃん。

 誠の私服を見るの、なんだか久しぶり。

 中学に入ってからは、毎日制服だったから。あのミッドサマー・フェステバルのときの甚平姿以来かな。

 鮮やかなオレンジの外国チームのサッカーのユニホームに、黒い半パンツをはいた、ラフな格好。頭には臙脂色のキャップ。1リットルの巨大な水筒を肩にかけてる。


「誠って、やっぱりカラフルな服が似合うね~」

「へへへ~、本当? 私服の和泉、カワイ~。最近ちょっと、センスがおとなっぽくなった?」

「ええ~? そうかな~?」


 あたしは、自分の服を見おろした。

 白い七分丈のスパッツに、黒のキャミ型のチュニックを着てきた。チュニックは、太ももまで長いから、ワンピース感覚。


「黒、着こなしちゃうなんてさ、おとなの女性じゃん! 和泉ってば、せくしぃ!」

「も~、誠ってば、おだてないでよ!! あたし、誠ほど着こなしに自信ないんだからぁ」


 キャアキャア言い合ってたら、あたしと誠の前をヨウちゃんが素通りしていった。


 ……あれ?


 一番左端の砲弾倉庫跡の部屋のゆかにしゃがみこんで、さっさと小枝を焚く準備をしてる。


「うわ……。葉児、妬いてる、妬いてる。和泉ぃ。ちょっと、フォローしといで」


 誠が、あたしの肩をつついた。


「え? なんで?」

「いいから、いいから。葉児もカッコイイとかなんとか言って」

「う……うん」


 アーチ状の入り口から中に入って、あたしもヨウちゃんの横に、すとんとしゃがみこんだ。

 ヨウちゃんは、いつもと同じ白いTシャツに細身のジーンズ。だから、ほめるっていったって、どこをほめれば……。


「ね? ヨウちゃんもカッコイイよ?」

「ウソつけ。オレはど~せ、普段通りだよ」


 わ……ホントにすねてる~っ!

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