ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
479 / 646
4 セミの鳴く木陰で

34

しおりを挟む

 ヒメは、妖精。中学生くらいの女の子で、白いロングドレスを着ていて、ふわふわパーマの金髪で。青く澄んだ目。浅山の妖精たちの中では、一番のおねえさん。


「なんで、ヒメが……?」


「わからない。だからこの機会に、理由をさぐるぞ」


 ヨウちゃんは、ジーンズの右ポケットをさぐって、中からオークとホーソンとアッシュの枝の入ったビンを出して見せた。

 これ、妖精を呼び出すお香。

 きょうは、夏休みに入ってはじめての日曜日。

 誠のサッカー部も、あたしの手芸部も休みの日。だから誠に、妖精を見せてあげるって約束してる。

 ヒースの茂みの中に、古びたレンガ造りの建物が見えてきた。第二次世界大戦の戦争遺跡の砲弾倉庫跡。赤レンガをつんだ壁にならぶアーチ状の入り口は、日本じゃなくって、ヨーロッパの遺跡に来ちゃったみたい。

 その入り口ひとつひとつにうす暗い部屋がある。今は、がらんどう。昔は、大砲の弾なんかが置いてあったんだって。



「うわ~、ヤダね~! なんなのこの、イチャイチャカップル」


 レンガの壁の向こうから、ひょいっとやせた男子がとびだしてきた。大きな丸い耳にくりくりの目。


「ま、誠っ!?  もう来てたのっ!? 」


 あたしはパッと、ヨウちゃんの腕から手をはなした。


「そりゃ~オレ、きょうをチョー楽しみにしてたんだもん。集合時間の三十分前から、スタンバってたよっ!!」

「おまえ、それは、早すぎだろ!」


 にっかりVサインの誠に、あきれ顔のヨウちゃん。

 誠の私服を見るの、なんだか久しぶり。

 中学に入ってからは、毎日制服だったから。あのミッドサマー・フェステバルのときの甚平姿以来かな。

 鮮やかなオレンジの外国チームのサッカーのユニホームに、黒い半パンツをはいた、ラフな格好。頭には臙脂色のキャップ。1リットルの巨大な水筒を肩にかけてる。


「誠って、やっぱりカラフルな服が似合うね~」

「へへへ~、本当? 私服の和泉、カワイ~。最近ちょっと、センスがおとなっぽくなった?」

「ええ~? そうかな~?」


 あたしは、自分の服を見おろした。

 白い七分丈のスパッツに、黒のキャミ型のチュニックを着てきた。チュニックは、太ももまで長いから、ワンピース感覚。


「黒、着こなしちゃうなんてさ、おとなの女性じゃん! 和泉ってば、せくしぃ!」

「も~、誠ってば、おだてないでよ!! あたし、誠ほど着こなしに自信ないんだからぁ」


 キャアキャア言い合ってたら、あたしと誠の前をヨウちゃんが素通りしていった。


 ……あれ?


 一番左端の砲弾倉庫跡の部屋のゆかにしゃがみこんで、さっさと小枝を焚く準備をしてる。


「うわ……。葉児、妬いてる、妬いてる。和泉ぃ。ちょっと、フォローしといで」


 誠が、あたしの肩をつついた。


「え? なんで?」

「いいから、いいから。葉児もカッコイイとかなんとか言って」

「う……うん」


 アーチ状の入り口から中に入って、あたしもヨウちゃんの横に、すとんとしゃがみこんだ。

 ヨウちゃんは、いつもと同じ白いTシャツに細身のジーンズ。だから、ほめるっていったって、どこをほめれば……。


「ね? ヨウちゃんもカッコイイよ?」

「ウソつけ。オレはど~せ、普段通りだよ」


 わ……ホントにすねてる~っ!

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―

くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」 クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。 「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」 誰も宝君を、覚えていない。 そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『小栗判官』をご存知ですか? 説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。 『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。 主人公は小学六年生――。 *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

先生,理科って楽しいね。

未来教育花恋堂
児童書・童話
夢だった小学校教員になったら,「理科専科」だった。でも,初任者指導教員の先生と子ども達と学習していくうちに,理科指導が¥に興味が高まった。

処理中です...