ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 おかえり、ヨウちゃん。

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 マットの上の女子たちが、いっせいにあたしを見た。


 いいんだ。気にしないっ!


 琥珀色の目に、光がともった。

 ヨウちゃんが腰をかがめる。

 大岩が身がまえたとき、ヨウちゃんの足はもう、バネのように大岩の左から、とびだしていた。


「う、うわっ!? 」


 大岩がふり向く間に、ヨウちゃん、ロングシュート。

 ゴールネットがゆれる。キーパーの青木が、ぽかんと口を開けて、取りそこねたボールを見つめてる。


「わぁあああっ!! 」


 男子たちの歓声。


「葉児ぃ! やったなっ!! 」


 誠がかけていって、ヨウちゃんにハイタッチ。


「誠もナイス!」


 たちまち、ヨウちゃんは男子たちにかこまれた。


「すげ~! やっぱ、葉児って、すげぇ~っ!! 」

「なんだよ、今のシュート! 神かよ~っ!! 」


 太陽の光が、キラキラ笑うヨウちゃんを照らしてる。







「は~、久しぶりに見た~」


 お昼休み。女子たちのグループのあちこちから、黄色い声があがっていた。


「やっぱり、中条君って、カッコイイよね~」

「あんなに大岩にガードされててさ。それでも、シュート打つとか」

「しかも、決めちゃうなんてぇ~っ!! 」


 キャアキャアって大はしゃぎ。


 あ……このもりあがり、久しぶり。


 昔は、あたしたちグループをのぞいたクラスの女子全員が、ヨウちゃんのファンで。その中でふんぞり返っているヨウちゃんが、うざったくもあったんだっけ。

 教室の真ん真ん中の自分の席に座ったまんま、あたしは後ろのロッカーをふり返った。

 ヨウちゃんは、男子たちの中で、ゲラゲラと笑ってる。


 うん。すごく、ヨウちゃんらしい。


 もともと、クラスをまとめちゃうほどの存在。

 勝気な笑顔も、腕を組むオレサマなしぐさも、みんなにかこまれてこそだよね。


 肩をゆらして、大岩がロッカーの前に歩いてきた。刈りあげた後ろ髪を、ぽりぽり。


「葉児。おまえさ、サッカー部に入れよ」


「……え?」


「やっぱオレ、おまえと勝負すんの、楽しいんだよな。おまえ最近、体育の授業も手を抜いてたろ」


「……大岩」


 大岩ってば、ほっぺた赤らめて、ゆかを見つめて、乙女みたい。

 ヨウちゃんは、腰に手をあてて「う~ん」とのびをした。


「サッカーなぁ。けど、オレ的には、サッカーより、バスケのほうが興味あるんだよな~。入るんなら、バスケ部だな」


「な、なにぃ~っ!? 」


 大岩の声が裏返った。


「くそぉ~っ!!  オレもサッカーやめて、バスケ部入る~っ!! 」

「なんだ、それ?」

「つ~か、大岩、葉児のこと好きすぎっ!」


「わははは」と笑う男子たちに目を細めてたら、「綾ちゃん。そろそろ、話をきかせて」と横から声がした。


「え? えっと……有香ちゃん?」


 うわ~。黒縁メガネの奥で、じと~ってあたしを見てる。
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