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3 おかえり、ヨウちゃん。
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しおりを挟む太陽、じりじり。
校庭には陽炎がゆれている。まるで校庭がでっかいフライパンになっちゃって、地下から火にかけられているみたい。
走るたくさんのスニーカーから、砂ぼこりがあがった。
校庭の西に設置された、サッカーのゴールコートに向かって、中学一年の男子たちが走っていく。
四時間目は体育の授業。
こんな日は、熱中症になりそうだから、女子たちは、日陰でてきとうにマット運動。
っていうか、体育の赤井先生が、男子サッカーの監督をしているのをいいことに、マットの上に座って、のんびり井戸端会議中。
「ねぇ、ふたりとも、テスト勉強進んでる~?」
有香ちゃんと真央ちゃんにきいたら、「とりあえず、初日のぶんはな」って、真央ちゃん。「わたしは一通り終わったよ」って、有香ちゃん。
すっごい、ふたりともっ!
あたしは、土日の間、ひとりで、家ではしゃいじゃって。とても勉強どころじゃなかったなんて……言えない。
「あ、誠がまたボール取った」
マットの上であぐらをかいて、真央ちゃんが男子のほうに目をこらした。体育着の紺色のハーフパンツから出ているのは、むちむちの白いふくらはぎ。
これで、横にイカげそとビールでも置いてあったら、サッカー観戦をしてるおっさんみたいなんだけど。
「誠は、やっぱりサッカー部なだけあって、うまいよね。あ。今のフェイク見た?」
有香ちゃんも柔軟体操をしながら、ながめてる。
有香ちゃんの細くて長い足は、軽々百八十度開けちゃう。
本当、誠はちょこまか動く。背がのびても、すばしっこさはかわらない。
足首をくいくい動かしながら、ボールをキープして、敵のチームをごぼう抜き。
誠に……話さなきゃな……。
あたしもマットのはじでひざを抱えた。
ヨウちゃんとの仲は、誠にくっつけてもらったようなものだから。
でも……また、誠を傷つけちゃう……。
誠の前に、黒い影が立ちはだかった。
大岩。
誠の背はのびたけど、大岩もかなり背が高いほう。六年のころから、ヨウちゃんの次に高かった。しかも、腕や足の太ももにむきむき筋肉がついているから、名前の通り「大きな岩」。
おまけに大岩は、誠と同じサッカー部員。
う……誠、ピンチ!
「誠、パスっ!」
コートのはじから、低い声がした。
誠のななめ右の前で、手をあげたのはヨウちゃん。
誠がサッと身をちぢめて、ボールを持った足を、後ろに引いた。
その足が、右に蹴りだされる。
ボールは、大岩の左わきをすり抜けて、大きくとんでいった。
ヨウちゃんの右足が、ボールを受けとめる。
わ……。
ヨウちゃんがゴールに向かってドリブルする。きびきび動く、白くて長い足。さらさら舞う琥珀色の髪。
……カッコイイ。
「待て、葉児っ!」
大岩が走り込んできた。ヨウちゃんの前にまわって、ディフェンス。
ヨウちゃんは、ハッとした顔になって、ボールを持った足を、後ろにさげた。
あ、苦戦してる。
誠が後ろから「葉児、パス! こっち!」って言ってるけど、どうしても前に出したいみたい。
大岩がニヤリと笑った。
「葉児。もう、昔のようにはいかねぇぞ。オレはおまえみたいな、青っちょろい帰宅部とはちがうからなっ! 毎日、部活で汗流してんだよっ!! 」
あ~っ!! ムッカ~っ!!
なによ、大岩ってばっ!
なんにも知らないくせにっ!! ヨウちゃんはヨウちゃんなりに、いろいろあって大変なんだからねっ!
あたしは、すーっと息を吸い込んだ。
両手をメガホンにして、思いっきり声を出して。
「ヨウちゃん、がんばれ――っ!! 」
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