ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 おかえり、ヨウちゃん。

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「綾ちゃん。ちょっとこっちに来て、このハーブティー、試飲してくれない?」


 お庭のハーブの緑にかこまれたヨウちゃんち。

「おじゃまします」と言ったとたんに、ヨウちゃんのお母さんにつかまった。

 きょうも、白いふりふりエプロンをつけて、お店のカウンターでニコニコ顔。


「かあさん、オレたち、いそがしいんだけど」


 帰り道でハグの話をしてから、ヨウちゃんの眉間はけわしい。

 そりゃそうだよね。やっぱり、ハグは外に出てきていて、あたしのようすをうかがってたってことだもんね。


「でもさ、ヨウちゃん。ハグが何を考えているのかは、まだ、まったくわかんないんだよ。対策を立てようにも、立てられないよ」


「そうそう。葉児は、なんでもかんでも、闇雲にがんばりすぎるから。少しは息抜きしなさい」


 お母さんが、カウンターにグラスをふたつ置いた。

 上にミントの葉がうかんでいる。中のティーは、海みたいに澄んだ青。


「えええっ!?  これ、なんでこんな色っ!? 」


 だって、真っ青だよっ!

 ソーダよりもずっと濃い、はっきりあざやかな青。


 ハーブティーって言ったらさ。葉っぱを煮出してつくるから、だいたいは、ほうじ茶色なのに。


「マロウだろ? マロウブルーって、有名なハーブティーだぞ」


 ヨウちゃんさらり。カウンターにななめに座って、ストローで一口飲んで。

「かあさん、これ、はちみつ足りてない」って、グラスを押しもどした。


「あら、ホント? マロウは味があんまりないから、加減がむずかしいのよね」


 お母さんはカウンターの中から、はちみつのポットを出してきてる。


「ね、ねぇ。マロウって……。昔、あたしが全身真っ黒になっちゃったときに、鵤さんからもらった薬の……?」

「ああ。あのマロウだよ。フェアリー・ドクターの薬はできあがると、どれも虹色にかわるからな。あのときには、元の色はわかんなかったな」


 ヨウちゃんは目を細めて、カウンターの奥にならぶティーカップのずっと先を見つめた。


「綾ちゃんも飲んでみて」

「はいっ!」


 お母さんに言われて、あたしもヨウちゃんのとなりのカウンターチェアにとびのる。

 冷房で背中の汗がひいていく。お店には、ケルトミュージックのやわらかな音色。きょうはお客さんが数人だから、話し声も、まるで川のせせらぎ。


「綾ちゃん、レモンはだいじょうぶよね?」

「え? はい」

「じゃあ、これを、どうぞ」


 お母さんが、あたしのハーブティーの上で、輪切りにしたレモンをきゅっとしぼった。


「えええっ!? 」


 あたし、グラスの中をまじまじ。


 だって、色がかわってく!


 レモンの汁が、青の中で濃いピンク色にかわって、グラス全体に広がっていく。

 マジックでも見ているみたい。たちまちハーブティーが、目が覚めるほどのあざやかなピンクにかわった。


「マロウティーはね、レモンを入れると、青色が、ピンク色にかわるのよ」


 カウンター越しにお母さんがウインクした。

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