ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 おかえり、ヨウちゃん。

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 あたしは、バッとふり返った。


 気のせい?

 でも今……たしかに。


 後ろの個室に近寄って、中をのぞきこむ。


 足元を、黒い毛玉がすり抜けた。


「きゃっ!」


 トイレのドアにへばりついて、背中をぶつける。


「い、イタ~」


 抱えるほどの大きさの黒い毛玉が、ピンク色のタイル張りのゆかを走っていく。

 パッととびあがって、トイレの窓の桟に足をかけ、外に消える。


 黒いウサギ……。


「ハグっ!? 」


 あたしはトイレの窓にかけよった。

 ここ、校舎の三階。

 校庭の桜の葉の黄緑色が、ずっと下のほうに見える。

 部活をする生徒のいない放課後の校庭は、ムダに広くて、日差しを浴びて明るい。


 いない……。


「よ、ヨウちゃんに知らせなきゃっ!」


 トイレのドアノブを押そうとして、あたし、手をとめた。



「な~、葉児。さっきは、なんなの~?」


 ドアの外から、誠の声がきこえてくる。


「オレと和泉がいっしょに絵を描くのを、とつぜんジャマしたりしてさ~。ちょーウザいんだけど」


 女子トイレのドアの丸い窓から外をのぞいたら、廊下で、誠とヨウちゃんが向かい合ってた。

 誠はほうきの柄をにぎっていて、ヨウちゃんは肩にスクールバッグをかけている。


 つまり、誠は掃除のとちゅうで。

 ヨウちゃんは、帰ろうとして、教室から出てきたのかな?


 ヨウちゃんは胸をそらせて、しらっと腕を組んだ。


「べつに。わけなんて、美術の時間に話したとおりだろ? カップルで描きあうと、意外と描きづらいから、かわってやっただけだよ」


「ふ~ん。じゃあ、葉児は和泉とスラスラ絵を描けたんだ~」


 うわっ!?  誠、つっかかっていってる。


「オレには、さっぱり描けてないみたいに見えたけど。和泉のこと、意識しすぎて描けなかったのは、オレじゃなくて、葉児のほうだよね?」


「……なにが言いたいんだよ」


 ヨウちゃんの声からトゲが出た。


「べつに~。たださ~、そろそろはっきりしたほうがいいんじゃないの~? なんだっけ? 葉児、悪い妖精が襲ってきたら、まわりに迷惑をかけるから、ひとりになるって言ってたよね。

けどさ、もし、ひとりのときに襲われたら、葉児、ダメージすごいんじゃない? まわりにだれかいれば、助け合えるかもしれないのに。そろそろ、カッコつけんのやめて、素直にまわりと手を組みなよ」


「……ほっとけよ、オレのことなんか。おまえ、今、オレのこと、ウザいって言ったとこだろ?」


「葉児の中途半端なところが、ウザいの。いいかげん、腹決めてよ。けっきょく、葉児は和泉のこと、どう思ってんの?」


 えっ!?  な、なにっ!?

 誠っては、なんてこと、きいちゃってんのっ !?


 ヨウちゃんは、足元のうわばきを見つめてる。


 ヨウちゃんも、なんか言ってよ……。
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