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3 おかえり、ヨウちゃん。
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しおりを挟む「――で。綾ちゃん、けっきょく、絵は描けたの?」
放課後。帰りのホームルームが終わってから。
スクールバッグを肩にかけて廊下に出ると、有香ちゃんにきかれた。
「う……。それがね……」
「あ~。綾たち、ぜんぜん描いてなかったよな~。なにアレ? にらめっこ?」
真央ちゃんがあたしの左どなりで、くっくって笑ってる。
「だ、だってぇ~」
いざ、ヨウちゃんと組んで。お互いの前に座ってから、ものすごい後悔した。
は、はずかし~……。
ヨウちゃんの琥珀色の目が、まばたきひとつしないで、あたしの顔を見てくる。
あたしは、それにたえて、ヨウちゃんを見つめ返さなきゃなんない。
で。あたしがヨウちゃんの顔を見てたら、ヨウちゃんはうつむいた。
「ちょっと、動かないでよ~」って言ったら、「うるさい!」って怒鳴られるし。ヨウちゃん、ほっぺを赤くして、うつむいたままかたまっちゃうし。
そんなヨウちゃん見てたら、あたしの心臓もドクドクうるさくなっちゃって。もう、鉛筆はちっとも動かなくて。
ふたりして、ほぼ白紙の紙を提出して、先生にすごい怒られた……。
「あれなら、誠と組んだほうが、ラクだったかも~」
誠はけっきょく、山田と組んで描いていた。超立体的で、影もうまくついていて、小さな目とか、大きな鼻とか山田そっくりで、黒田先生にほめられまくってた。
「だけど、綾ちゃん。きょうはとつぜんどうしたの? 綾と中条が会話してるの見たの、わたし小六以来だよ?」
有香ちゃんの黒縁メガネのレンズが光った。
「……綾。中条のこと『ヨウちゃん』って呼んでたな」
腕組む真央ちゃん。
う。ドキっ!
「マジで、何があった? 綾は今、誠とつきあってるんだよな?」
「えっ!? う……うん」
ウソっこのカレカノだけど。
「そのわりには、きょうは誠といっしょに帰らないんだな」
真央ちゃんたら、あたしの顔をマジマジとのぞきこんできて、もう、どこかの探偵みたい。
「しょうがないじゃん! 誠は、きょうは掃除当番なのっ! あ、あたしもちょっと、トイレ寄って帰るから、ふたりとも先に帰っててっ!! 」
「え~? 綾?」
「待っててあげようか~?」
「待たなくていいっ!」
あたしは、スクールバッグの取っ手をにぎりしめて、ふたりの間から逃げ出した。
だって……だってっ!
なんて説明すればいいの~っ!?
それに、あたしとヨウちゃんの関係……たいしてかわってないんだよね。
個室から出て、手を洗いながら、あたしはハァとため息をついた。
トイレの鏡にうつるあたしの顔。きょうもアホ毛がそり返ってる。
きのう、この中の世界に入り込んだことが、なんかもう、すでに信じられない。
あたしのワイシャツの肩越しに、トイレの個室もうつりこんでる。
開いたドアの奥に、黒いモヤみたいなものが見えた気がした。
……え?
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