ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 おかえり、ヨウちゃん。

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「……え?」

「綾ちゃん?」


 あたしは、真央ちゃんと有香ちゃんの間からとびだした。

 パタパタ、イーゼルのすき間をぬって、ヨウちゃんの前まで走っていく。

 琥珀色の目が、まん丸になって、あたしを見てる。


「……え? おまえは誠とだろ?」


「そうだよ。和泉ぃ。オレと組も」


 ふり向いたら、誠がこっちに歩いてきてた。

 ズボンのポケットに両手をつっこんで、にっこり笑顔。


「やっぱさ~。こういうのは、つきあってるもの同士で組まなきゃね~」


 美術室の中に、元のざわめきがもどってきた。これは、きっと「あ、やっぱ、和泉さんは誠と組むのか」っていう空気。


「でも……じゃあ、ヨウちゃんはだれと組むの?」


「あ~。オレは鏡見て、自分の顔描くから、別にいい」


 ヨウちゃんはしらっと、こめかみをかいてる。


 なにそれ、くっら~!


「わかった。なら、あたしが鏡見て、自分の顔描く。ヨウちゃんと誠が、いっしょに組みなよ」


「はぁ~?」


 ふたりの声が重なった。


「オレ、葉児の顔なんか描くのヤダぁ~」


「オレだってヤだよ。綾。おせっかいはいいから……」


 だって……。


 あたしはぎゅっと、自分のスケッチブックを抱きしめた。


「なによ……。ヨウちゃんきのう、『もっと話したい』って言ってたじゃん……」


 ヨウちゃんが、ハッとあたしを見る。それから、視線を自分の足元に落として、うつむいた。



「……わかった。綾……オレと組もう」


「ええっ!?  なに言っちゃってんだよ、葉児ぃ!」


「あのな、誠。カップル同士で描きあうのはやめとけ」


 琥珀色の瞳が、いどむように誠を見た。


「なんでだよ~? カップルで描いたほうが、ラブラブっぽくていいじゃん~」


「それが、落とし穴なんだよ。カップルなんかで描いてみろ。好きなら好きなほど、お互いを意識しあって、ろくに絵なんて描けねぇぞ」


「え~っ!?  じゃあ、オレはだれと組むんだよ~」


「黒田とでも組んどけ。あのもじゃひげ、なかなか描きやすそうじゃねぇか」

「なんだよ! 葉児の鬼っ!」

「ば~か。こっちは、人助けしてやってんだよ!」


 窓からの暑い日が、ヨウちゃんのほっぺたを照らしてる。

 まわりからざわめきが消えた気がして、あたし、美術室の中を見まわした。


 みんなが動きをとめて、ヨウちゃんを見てる。

 ハートマークになってる女子たちの目。

 男子たちの目もまぶしそう。


 そんなクラスメイト達の視線なんか、さっぱり気づかないで、ヨウちゃんは笑ってた。


 眉をつりあげて。ケラケラ、ケラケラ。





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