ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 おかえり、ヨウちゃん。

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 いい夢を見た。


 ううん。ホントは悪夢。

 だって、ハグに鏡の中に閉じ込められちゃうし。

 やっと鏡の外にもどれたと思ったら、あたしといっしょに、ハグまで外に出てきちゃうし。


 それでも、胸がほかほかしているのは、ヨウちゃんといっぱい話せたから。

 ヨウちゃんがあたしに笑いかけてくれたから。



「おはよ~、綾ちゃん!」


 校門へ向かう道を歩いていたら、あたしの右肩に、ぽんっと手がのっかった。

 右を見たら、有香ありかちゃんだった。

 ワイシャツの胸には、学校指定の臙脂色のリボン。ひざ丈の紺色の制服スカート。つやつやの長い髪を、ふたつにむすんで、胸にたらしてる。細い手足に、細い腰。黒縁メガネが決まってて、同じ中一なのに、オネエサマ先生みたい。


「おはよ~、綾!」


 今度は左肩に、肉厚の手がぽんっとのっかった。


「ふたりとも知ってるか~? きのう、梅雨が明けたって~」


 左を見たら、真央まおちゃんだった。

 ふわふわのくせっ毛に、大福みたいにふっくらしたほっぺた。リボンをはずして、ワイシャツのボタンをふたつも開けてるから、中の黄色いタンクトップが見えちゃってる。制服スカートを短くして。のぞいてる大根みたいな太ももが、白くてまぶしい。


「おはよ~、有香ちゃん、真央ちゃん! 知ってる。ニュースで見た! 今年は梅雨明けが早かったね~」

「こないだから、晴れが続いてると思ったら、まさかのだよね」


 あたしは、青空を見あげた。

 フェンスの向こうは中学の校庭。黄緑色の桜の葉に、日差しがキラキラ反射してる。

 登校する生徒たちの声にまじって、アブラゼミの鳴き声がした。


「長い夏になりそうだね」

「夏、サイコーじゃん! 夏休み、海行く? プール行く?」

「……真央。その前に、期末テスト」

「うあ! 有香のバカっ! 人がせっかく現実逃避してんのに、現実につれもどすな~!」


 頭を抱える真央ちゃんに、有香ちゃんとふたりでケラケラ笑ってたら、後ろから「おはよう」と声がした。

 胸の深いところをつく、男子の低い声。


「お、おはよっ!! 」


 あたし、全身の力を込めて、さけんでた。

 琥珀色の髪の毛は、あたしたちの横を通り越して、そのまま人ごみにまぎれていく。


「……え? あれ……?」

「綾ちゃん、今の……」


 真央ちゃんも有香ちゃんもまばたきしてる。

 あたしは、ドクドク言う、自分の鼓動をきいていた。


 夢じゃ……ないっ!


 きのう、鏡の世界から、ヨウちゃんに助け出してもらったこと。



「……ふ~ん」


 別の声がしてふり向くと、生徒たちの中に誠が立っていた。肩にスクールバッグをかけて。両手を制服ズボンのポケットにつっこんでる。

 すねたみたいな目が見すえているのは、ヨウちゃんの背中。


「誠、おはよう」


「おはよ~、和泉ぃ~」


 誠は大きな口を横に開いて、「にこ~」って笑った。

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