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2 もしも、叶うものならば
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しおりを挟むヨウちゃんが、コンロの火をとめるのと同時に、ストップウォッチが鳴った。
ミルクパンの中をのぞきこんだら、インゲン豆の房が虹色の淡い光に包まれている。虹色のオーロラに包み込まれているみたい。
ヨウちゃんは箸で、ミルクパンから虹色のインゲン豆を取り出して、お皿にのせてく。
「はい。完成」
「す……すごい……。一発……」
フェアリー・ドクターになる条件は、「妖精が見えること」と「フェアリー・ドクターになる洗礼を受けていること」。
あたしも、ヨウちゃんといっしょにフェアリー・ドクターの洗礼を受けた。だからあたしも、薬をつくるのに挑戦したことがある。
でも、何度も何度も失敗した。「もうできない!」って投げ出したくなった。
「あのな。オレが今まで、どれだけつくってきたと思ってんだ? 日頃の成果をなめんなよ」
「ねぇ、もしかして、部活に入らないで、毎日こんなことしてた?」
「こんなことばっかじゃねぇよ。とうさんの本も読んでたよ」
「うわ~。くら~。引きこもり~」
ケラケラ笑ったら、ヨウちゃんも鼻にしわを寄せて笑った。
「うるさい、綾!」
どうしよう。胸がキュンキュンする。
「ほら。もう冷めた。綾、これ食え」
ヨウちゃんが、プチプチと、房から豆を出していく。お皿に転げた豆はみんな、虹色の淡い光をはなってる。
虹色なのは、フェアリー・ドクターの魔力が宿ったあかし。
「うん」
お皿に手をのばして、あたし、「う……」とつまった。
豆をつかもうとした指が、スカスカと空気をつかんじゃう。
「ど、どうしよう~。あたし、鏡の外の世界にあるものは、さわれないんだった~」
「じゃあ、リンゴのときはどうしたんだよ?」
「えっと。リンゴの位置を鏡でたしかめてね。そばに寄って、口でがぶっと」
「なら、これも、がぶっと……ってわけにはいかないか……」
ヨウちゃんが前髪をかきあげた。
だって、お豆は小さくて。
あたし、お皿にへばりついて、犬みたいに食べなきゃダメ?
「わかった。じゃあ、こうするぞ」
ヨウちゃんはインゲン豆をひとつ、指先でつまみあげる。
「ほら、綾。あ~ん」
「ほ、ほぇっ!? 」
「だから。オレが豆をつまんでるから、おまえはそれを食え。っても、こっちにはおまえの姿が見えないから、タイミングがつかめないな。よし。オレは、『あ~ん』の『ん』で、指をはなすから」
「えええ~っ!? それって、なんか、はずかし~よっ!」
「しょうがないだろっ! ほら、さっさとやるぞ! こっちだって、はずかしいんだよっ!」
ヨウちゃん、お豆をつかむのと反対の腕で、真っ赤なほっぺを隠してる。
わ……カワイイ……。
「う……うん……。わかった。やるよ」
しょうがないから、ヨウちゃんがさしだした豆の先に口をのばして。
すごい心臓、バクバク。
「はい、あ~……」
目の前に、サッと黒いものが横切った。
「きゃっ!」
「え? どうした?」
「わ……わかんないっ! けど、今……なんか目の前を黒いものが……。ヨウちゃんは気づかなかった?」
「……こっちは、なんもなかったぞ」
ってことは。今のは、鏡の中で起きたこと……。
肩越しに、チクリと視線がつきささった。
バッとふり返る。
格子窓が、東にしずむ夕日をうつしていた。鏡の外とはぜんぶ左右逆の世界。
……だれもいない。
「――え? インゲン豆が消えたっ!? 」
ヨウちゃんの声に向き直ると、お皿の上が空っぽだった。さっきまで二十粒くらいもあったインゲン豆が一個もない。
「な……なんで……?」
「綾! のこりはオレが持ってる、これだけだ! 早く食えっ!! 」
「う、うん!」
「行くぞ! あ~ん」
パクンとお豆に食いついたら、「うわっ 」っとヨウちゃんが指を引っ込めた。
「あ……綾……」
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