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2 もしも、叶うものならば
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しおりを挟む「そういえば、綾。おまえは、どうやって、鏡に入った?」
「えっとね。放課後に、学校の鏡で黒いウサギに会ってね。教室の教卓の上のリンゴを食べたの。そしたら、鏡の世界に入っちゃって。黒いウサギは、ウサギに化けたハグだったんだ。出ようとしても、出られなくて……」
「う……さすがはアホっ子……。話の意味が半分もわからない……」
ヨウちゃんてば、頭を抱え込んでる。
「なによ~。人に話を伝えるのって、むずかしいんだからぁ~」
「でも……そうか。リンゴか……」
ヨウちゃんが頭から手をはなした。
「それはたぶん、冥界のリンゴだな」
「……冥界のリンゴ?」
「ああ。よく物語であるだろ。その世界の食べ物を口にすると、その世界の属性がついてしまって、現実の世界にもどれなくなるって、パターン」
「あ……こないだのアニメで見た」
「それと同じだよ。なら、帰り方はこうだ。こっちの食べ物を口にして、綾の体を、こっちの世界の属性にもどす」
「……ヨウちゃん……できるの?」
「できる。待ってろ」
はずみをつけて、ヨウちゃんが腰を起こした。
眉毛のつりあがったヨウちゃん、久しぶりに見る。琥珀色の瞳に強い光がともって、口元、ニッとあがってる。
か、カッコイイ……。
書斎のドアを開けた手がとまって、ヨウちゃんがふり返った。
「――綾、ほかには、何もされてないな?」
「……え?」
「リンゴを食わされた以外に、ハグに何かされたか?」
ドキッと心臓が鳴った。
「う、ううん。リンゴを一口食べただけっ!」
頭にかすめたりんぷんのことは、また頭のすみに押しもどす。
だいじょうぶ!
羽なんて、きっとすぐに治るっ!
数分たってもどってきたヨウちゃんは、お皿にインゲン豆を数房のせていた。
「え? インゲン? ねぇ……なんでインゲン?」
声だけしかきこえないあたしに、ヨウちゃんは、すっかり慣れちゃったみたい。
「インゲン豆は、冥界とこの世をつなぐものって言われてるんだよ。今から、食えるようにゆでて、フェアリー・ドクターの魔力をかけるから、ちょっと待ってろ」
ヨウちゃんは、ノートや教科書をつくえのはじに押しやって、かわりに小さなガスボンベのコンロと、ミルクパンをつくえの上にのせた。
ペットボトルのミネラルウォーターをきっちり400ミリリットル、ミルクパンにそそいで、火をかける。
その中に、房ごとインゲン豆を入れた。
……なんかとつぜん、お料理教室がはじまっちゃったんだけど。
あたしは、つくえの向かいに腕をついて、ようすをのぞきこんでる。
こういうの、懐かしい……。
昔は、毎日のようにこの部屋に来て、ヨウちゃんが本を読んだり、フェアリー・ドクターの薬をつくるのをながめてた。
この部屋を包む古い本のにおいと、木の香り。ヨウちゃんが本のページをめくる音。それがぜんぶ大好きで。ヨウちゃんがたまに顔をあげて、いるのを確認するみたいに、あたしの顔を見てくれると、胸がきゅう~んって鳴った。
今、ヨウちゃんは目つきをするどくして、ストップウォッチと、ミルクパンのお湯の量を見くらべている。
フェアリー・ドクターの薬は、時間も分量もぜんぶ正確じゃないと、成功しない。
まるで、魔力が宿る一瞬だけを切り取るように。
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