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1 黒ウサギと鏡の国
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しおりを挟む「ねぇ、プーカ。悪いけど、もう一日待てない? あした、かならず助けに来てあげるから」
『ヤダよ……。
そんなこと言って、もし、あしたまでに悪いヤツに何かされたら、ぼく、どうしたらいいの……?』
黒ウサギはしゅんと耳をたらした。
「……プーカ」
プーカが怖がる気持ち、よくわかる。
ハグって、なにを考えているかわからない。「これはしちゃいけないことだな」っていう、人間ならふつうに持ってる「良心のルール」みたいなものがない。
……どうしよう……。
それにあたし……ヨウちゃんにはもう、話しかけられないんだった……。
それだけじゃない。あたしが相談したら、ヨウちゃんはまた、ハグと関わることになる。
また、あちこち傷ついて。
心まで、ズタズタにされて。
……あたしだけなら……。
あたしはぎゅっと、スクールバックの取っ手をにぎりしめた。
ハグに見つかる前に、プーカをつれて、さっさと鏡の世界から抜け出せたら……。
『ね、妖精さん。今からぼくの言う通りにして。
まずね、一年の教室に行って。
ぼくは、教卓の上に、リンゴをひとつ乗せておくから。
だけど、そのリンゴは鏡の国のリンゴだからね。そっちの世界の人には見えないの。
だから、妖精さんは手鏡かなにかで、リンゴがあるのを確認して。
そうしてね、そのリンゴを、食べてほしいんだ』
「……え? でも、見えないリンゴをどうやって、食べるの?」
『リンゴが鏡にうつっているところに行って、がぶっと一口やるだけでいいんだよ』
「わかった。――あ、でも、鏡の中に入っても、あたし、外に出る方法なんて知らないよ」
『それは、へいき。
妖精さんなら、鏡の国に入れば、すぐに出る方法がわかるようになるよ』
そういうものなのかな……?
鏡の世界に入れば、こっちの世界では見えないものが、見えるようになるとか?
「……わかった」
あたしは鏡の前からはなれた。
うす暗い廊下を、一年の教室をめざして歩いていく。
花田市は田舎町で人口が少ないから、この花田中学校は一学年にひとつしか、クラスがない。
だからここが、毎日あたしが勉強している、自分たちのクラス。
前のドアから教室に入ると、黒板が真っ黒い巨大な池に見えた。
窓ガラスは西日をあてているのに、きょうは外から、運動部員のかけ声もきこえてこない。
黒板の前に、教卓が置かれてる。
上には、なんにものってない。
あたしはスクールバッグをあさって、コンパクトミラーを取り出した。折りたたみを開いて、教卓の上にかざしてみる。
鏡にうつりこんだ教卓の上に、赤いリンゴが置かれてた。
「これが、プーカが言ってたリンゴ……」
表面がつやつやしてて、オレンジ色の光を鈍くあてていて。手をのばせばさわれそう。
なのに、実際の教卓の上に手をのばしてみたけど、すかすかと空気をかくだけ。
鏡の世界にあるものは、鏡の世界に行かないとさわれないんだ……。
あたしはまた、スクールバッグの取っ手をにぎりしめた。
だいじょうぶ。
ちょっと行って、すぐに帰ってくるだけ。
鏡にうつったリンゴの前に口をさしだして。
かぶっと一口、かみついた。
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