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5 天の川をわたって
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歩道橋をコンビニ側におりて。
オレは、大通りの反対岸の階段を、綾の松葉杖がおりていくのを確認した。
よかった……。
転げ落ちずに、階段をおりられたらしい。
あいつはドジで、運動オンチだから。
こんな暗いところで、松葉杖で。段なんか踏みはずしたら、シャレにならないことになる。
綾の後ろ姿が、住宅街の角を曲がって消える。
送ってやりたかった。
でも、これ以上そばにいて、あしたはまた無関係にもどれるほど、オレは器用な人間じゃない。
つ~か、暴走するかも。また、「ヨウちゃん」とか呼ばれたら、ヤバい……。
「あなた……中条の葉児君よね」
ききなれない声にふり返ると、コンビニの駐車場で車のドアが開いていた。
黒のクーペの運転席から出てきたおばさんが、こっちをにらんでいる。歳はかあさんと同じくらいか。ベリーショートの髪に、ピアスをしている。
「あなたが歩道橋で女の子とイチャついてるの、ここからでも見えたわよ。あなた、うちの文をさしおいて、別の子に手を出してるのっ?」
「……うちの……文?」
「ま、ママっ!? 」
コンビニの中から、卯月先輩がかけだしてきた。
「ちょ、ちょっと、やめて! なにやってんのっ!? 」
手にコンビニ袋をさげ、卯月先輩はコンビニの客や、通行人をあわあわとふり返っている。
「文はだまってなさい」
先輩の母親は、車のドアを力まかせに、バンと閉めた。
「葉児君! 悪いけど、あなた一家は、まるでガンね! あなたといい、あなたの父親といい、いったい何度、わたしたちの幸せを奪ったら気がすむわけっ!? 」
「……葉児君」
先輩が、眉尻をさげてオレを見てくる。黒いロングヘアに化粧をした小顔。ひさしぶりに見た先輩は、やっぱり美人だ。
先輩は言っていた。この母親は、オレのとうさんに恋していたと。いっしょになれなかったことを、今でも悔やんでいると。
だから、母親に対するあてつけに、先輩はオレとつきあったと。
「わたしはね、あの人ならわたしを幸せにしてくれると信じてた。
文だってそうでしょ? 葉児君なら幸せにしてくれると信じたから、葉児君とつきあったんでしょ? でも、あなたも父親も、わたしたちの純な気持ちを、土足で踏みにじったのよっ!」
幸せに……してくれる……?
オレはくちびるをかみしめた。
ちがうだろ……。
「幸せ」は人に「してもらう」ものじゃない。
「……すみません。オレ、文さんと別れました」
オレは気をつけして、先輩の母親に、深々と頭をさげた。
「でも、文さんから幸せまで奪ったつもりはありません。とうさんだって、あなたから幸せを奪ったつもりはないと思います」
「あなた……何様?」
先輩の母親の口のはじが引きつる。
それでもかまわない。
相手の目を見つめて、オレはまた、ゆっくりと口を開いた。
「なぜなら、幸せは、人からあたえられるものではないからです。幸せは自分でつかむものだから」
言いながら、自分自身に、きかせている気がした。
そうなんだ……。
オレはずっと、綾を幸せにしてやる気になっていた。
自分が身を引いて、綾が誠とくっつけば、綾は幸せになると思い込んでいた。
ちがった。
幸せは、人がしてやるもんじゃない……。
綾が自分で感じなきゃ、意味がないんだ……。
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