ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 天の川をわたって

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 開いた窓から、夜の風がそよそよと吹き込んでくる。

 ママが「勉強しろ」ってうるさいから、夕飯を食べたら、あたしは早々と二階の自分の部屋にひきあげた。

 勉強づくえの前に座って。ノートと参考書を広げて。

 あたしはぼんやり、桜色の日記帳の表紙を見つめてる。


 つくえの上の充電器で、キッズケータイが鳴った。


「……あれ?」


 着信を確認すると、知らない電話番号から。080からはじまる携帯電話?


「えっと……。もしもし……?」


 耳にケータイをあてたら、「……和泉?」って声がした。

 誠じゃない。男子の低いささやき。


「オレ、中条。きょうは……ごめんな。いろいろと、気が動転した……」


「え……? ううん」


 中条は外にいるのかもしれない。声の後ろに、ときどき車やバイクの音が通る。


「和泉は……本当にあの日記帳の意味を知りたい……?」


「……え?」


 あたしはぎゅっと、ケータイをにぎった。


「し、知りたいっ!」


 だって、知れば、この胸のもやもやの原因がわかる。中条が泣いた理由も、中条を見ていると、あたしの胸がおかしくなる理由もわかる。


「中条、やっぱり何か知ってるのっ!?  知ってるなら、教えてっ!! 」


「……パンドラの箱だぞ。後悔するかもしれない」


「パンドラだか、なにドラだか知らないけど、開けてみなきゃそのときの気持ちなんて、わかんないよっ!! 」


 あたしは、つくえのわきに立てかけていた松葉杖を起こして、立ちあがった。


「ね、今、外なの? あたし、行く」


「いや、おまえは家にいろ。松葉杖で歩くのきついだろ? オレがおまえんちまで行く」


「だけど……中条、あたしの家わかる?」


「……わかる。今、おまえんちのそばのコンビニ」


「行くっ!」


 あたしは、ケータイをポケットにつっ込んで、松葉杖をついた。部屋のドアを開けて、階段をおりていく。


「ママ、あたしコンビニ行ってくるっ!」


 廊下からさけぶと、リビングのソファーでママがふり返った。


「え? 今から? 何か足りないものでもあるの? あしたじゃダメなの?」

「ダメなの!」

「じゃあ、ママが行くわよ。あんた、そんな足で……」

「ただのねんざだよっ!」


 あたしは玄関のドアを開けた。

 住宅街の空に星が広がってた。

 道には街灯の明かりがてんてんと落ちていて、おばさんがひとり、犬を散歩させている。

 アスファルトに、あたしの松葉杖の音がコツコツとひびく。


 住宅街を抜けると、大通りに出た。車がヘッドライトを流しながら、おだんごみたいにつらなっていく。

 その向こう岸に、コンビニの三色のロゴの入った電光板が光っていた。大通りを走る車は、向こう岸とこっちをへだてる、川の流れみたい。


 ……中条、いる?


 見えない。車のライトがまぶしくて、人が影にしか見えない。


「い、行こうっ!」


 目の前に歩道橋がそびえてる。その階段を、松葉杖をつきながら、一段一段のぼっていく。


「う~……松葉杖、めんどくさっ!」


 あたしは松葉杖を、階段のわきにカランと置いた。

 手すりに手をついて、左足をかばいながら、のぼりだす。

 階段は空にのびていく。

 銀色の粉を散りばめたような、満天の星空。


 あ……天の川……。



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