ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 天の川をわたって

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 有香ちゃんのつかうミシンの音が、カタカタとひびいてる。

 あたしは、自分のミシンの前に、ぼ~っと座っていた。

 部活で製作中のエプロンの布を、ミシンの前に広げてはいるんだけど。


 頭の中、真っ白。脳みそ、なんにも働かない。


「……綾ちゃん。手がお留守だけど」


 見かねた有香ちゃんが、あたしの顔をのぞきこんでくる。


「……うん……」


「綾ちゃん、部活に来るの遅かったけど、教室でなにかあったの?」


「……ううん」


 あたしは首を横にふって。だけどそのまま、うつむいた。


 中条……泣いてた……。

「ごめん」って……。


――……綾――


 あたし、中条に名前を呼ばれると、胸がじんとしびれる。



「い~ずみ!」


 誠の声がして、ビクッと肩がとびはねた。

 顔をあげると、手芸部の教室の前のドアから、誠のニコニコ顔がのぞいてた。


 ……あれ? 怒ってない……?


 さっき、あたしが中条とふたりでいたとき、誠、すごく硬い顔してたのに。

 誠は、自分の家にあがるみたいに、すたすた部室に入ってくる。まわりで作業している先輩たちも、家族が帰ってきたっていうくらいあたりまえに受け入れていて、顔もあげない。


「はい、わすれもの」


 誠は、あたしの胸に日記帳をさしだした。


「って、えええっ!?  こ、これを、誠がどうしてっ!? 」


「教室に落としてたよ」


 日記帳を両腕で抱え込んだあたしに、有香ちゃん、きょとん。



「あれ? 和泉さんてもしかして、水沢君と交換日記つけてる~?」


 先輩たちが笑いかけてきた。


「交換日記って、あれでしょ? 親世代に流行ったヤツ。ふたりでお互いに、その日にあったこととか、自分の気持ちを、ラインじゃなくて、一冊のノートに書いて、毎日交換し合うっていう……」

「わ~、昭和~っ! でも、いいな~、仲良くって」

「うんうん、このカップル、見ててほほえましい」

「いや~、へへへ~。それほどでも~」


 誠、頭の後ろに手を置いて、へらへら。

 だけど、うつむいた瞬間、誠の口から笑みが消えた。


 ……え?


「じゃ~ねぇ、和泉! オレ、今度こそ本当に児童館行って、劇してくるねっ!」


 また顔をあげて、誠は、にぱっと笑った。



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