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3 妖精と花火と綾桜
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しおりを挟む「チチチチチチチ」
頭上から妖精の声がした。
見あげると、チチとヒメが長いレンゲの花輪をつくっていた。右と左をそれぞれ抱えて、あたしの頭の上に、そっとのせてくれる。
「……ありがとう」
立ち込めるお花のにおい。
ほおに涙が伝っていく。
妖精たちは、あたしのことを、ちゃんと覚えてくれてる……。
涙が気持ちいい。
あたし、息……してる……。
登山道を大またの足音がのぼってきた。
ハッとして、顔をあげる。
相手もあたしに気づいた。林の中で、花にうずもれて座り込む、野生児みたいなへんなあたしに。
あたしの花輪のそばで妖精たちも、羽をはばたかせながらその人を見ていた。
細身のジーンズに白いTシャツ。サラサラ流れる琥珀色の髪。
「……ヨウ……ちゃん……」
あたしは花束に顔をうずめた。
どうして、ヨウちゃんなの……?
このタイミングで、ヨウちゃんが来るの……?
「チチチチ」
ヒメが笑いながら、ヨウちゃんの方へ飛んでいく。
だけど、ヨウちゃんはヒメを無視した。大またであたしに近づいてきて、ぐいっとあたしの右腕を持ちあげる。
あたしの手から、花束が落ちて、ひざに散らばった。
「――和泉っ! こんなとこで何やってるっ!? 」
「……え?」
「誠がさがしてたぞっ! おまえがとつぜん消えたって! あいつ、ケータイ持ってないから、オレのスマホから電話かけてくれって、たのまれたんだっ!! けど、ぜんぜん出ねぇしっ!」
「……あ」
自分のポシェットを開けて、携帯電話の画面を見たら、たくさん不在着信が入っていた。登録していない番号がならんでる。
ぜんぶ……中条の……。
あたしは涙をふいて、お花の中から立ちあがった。
「中条……。卯月先輩は……?」
「帰った。オレたちはクラス会があるからな」
「そっか……そうだよね……」
あらためてまわりを見まわしたら、いつの間にか日が落ちてきている。うす青い闇が、ゆっくりと山におりてくる。
「おまえ、もう、七時まわってるんだぞっ!! 女子が、こんな山ん中に、こんな時間に、ひとりになるな! あぶないってこと、少しは自覚しろっ!! 」
「……ご……ごめんなさい~……」
中条は、ハァと息をついて、あたしの手をはなした。
「オレんち、行くぞ。誠は先に行かせたから」
「……う、うん」
チチとヒメが、きょとんとした目で中条を見ている。
だけど中条は、妖精たちには目もくれなかった。ジーンズの後ろポケットに手をつっ込んで、もうどんどん山道をおりていく。
ごめんね。ありがとう。
あたしは頭の花輪を取って、ヒメの手に返した。
「チチチチ」
ヒメが首をかしげる。
あたしはね、もう、みんなと遊べないんだ。
妖精たちに手をふって、あたしも山道をおりていった。
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