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3 妖精と花火と綾桜
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しおりを挟む「……え……? 葉児君なんの話……? ようせい……?」
「和泉ぃっ!! 」
あたしはハッとふり返った。
人ごみの向こうで、誠が両手をふっていた。
「よかったぁ~。さがしたんだぞ~」
「誠……」
視線を感じて顔をあげると、中条と目が合った。
え……なんだろう……?
見開かれた目。あたしに向かって、口が開きかける。
「葉児君、わたしたちの番」
卯月先輩が、中条の腕を引っぱった。
「このおっきいリンゴアメ買って」
「誠っ!」
あたしは誠にかけよった。
胸がまだ、ドキドキしてる。
中条、なにか話そうとしてた。
……あたしに。
「あ~、やぶけちゃった~」
あたしは平べったい金魚の水槽から、薄紙の破けたフレームを取り出した。
水につけただけで、一発アウト。
「よ~し! 和泉の敵をとってやる~」
誠が紺色の縦じま柄の甚平を、力こぶしまでたくしあげる。頭の横にヒョットコのお面をつけて。すっかりお祭り男。
金魚すくいの水槽に、ふたりならんで腰をおろして。
「誠、あの赤いふりふりの金魚取って」
あたしが指さしたら、「和泉ぃ。そんな大きいのねらうから、破けるんだよ~」って笑われた。
誠がフレームで水面をなでる。薄紙の上に、赤い金魚がのっかって、ピチピチととびはねる。
誠は、すかさずお椀の水に金魚をうつした。
「すご~い! あたしがほしかった大きいやつ~」
キャアキャアはしゃいでたら、店番のおじさんも目を細めた。
「にいちゃん、うまいな。それ、カノジョにあげるのか?」
「え……えっとぉ」
誠が後ろ頭をかいたから、あたしは「えへへ」と愛想笑いしてごまかした。
カノジョ……か。
なんか最近、誠のカノジョにまちがえられるのに、慣れちゃったかも。
誠の目が、のぞきこむようにあたしを見た。
「……ほぇ?」
「ん~ん。和泉、次、どれ取ってほしい?」
「あ、じゃあ、そこの黒い出目金」
「りょうか~い」
誠ってば、お椀が金魚でうまるくらい、すくったけど。
もらえるのは、一匹だけ。
「和泉ぃ……あげる」
最初の真っ赤な琉金をもらって、お店を出たところで、誠があたしに金魚の袋をさしだしてきた。
夕日をあびる浅山のキャンプ場。ステージで奏でるミュージシャンのギターの音色がしんみりとひびいてる。
「和泉……オレ、ずっと言いたかったことあるんだ……」
誠は、耳横につけていたヒョットコのお面をはずした。
誠のほっぺたに、オレンジ色の光があたってる。笑いを消した、くりくりの二重の瞳が、まっすぐにあたしを見つめる。
「オレ……やっぱり和泉が好きだよ。オレと……つきあってほしい」
……誠……。
あたしは自分のワンピースのすそを見おろした。白いサンダルのつま先に、少し土がついている。
「……少し……考えさせて」
「……りょうかい」
顔をあげると、誠は笑っていた。「えへへ」と口を横に開いて。ほっぺたをリンゴ色に染めて。
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