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3 妖精と花火と綾桜
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しおりを挟む濃い緑にかこまれた浅山のキャンプ場に、「花田ミッドサマー・フェステバル」の横断幕があがってる。
青空の下でゆれるのは、風船屋さんのバルーン。
たこ焼き屋さんに、クレープ屋さん。かき氷屋さんに、わたがし屋さん……。
ならぶ出店の前で、たくさんのお客さんたちが列をつくってる。
すごい……こんなにぎやかな浅山、あたし、はじめて見た……。
ステージがつくられていて、漫才師がショーをやってるし。そのまわりのイスに座って観客たちが笑っている。
自宅カフェ「つむじ風」で強制参加のクラス会は、花火が打ちあがりはじめる七時半から。
「だったら、昼間は、お祭りで遊ぼ~よ」って、誠に言われた。
だけど、誠……どこだろう……。
こんなに人がいっぱいじゃ、誠ひとりを見つけられない。
待ち合わせ場所、おおまかに「お祭りの会場」じゃなくって、しっかり「どこどこの前」って決めとくべきだった。
自分のポシェットから、キッズ携帯を取り出してみても、誠は携帯持ってないから、意味がないし。
目の前の、リンゴアメ屋さんの列に、琥珀色の髪の後ろ頭を見つけたとたん、あたしの頭から、人のざわめきが消えていった。
中条が、いつもの白いTシャツに色のうすい細身のジーンズ姿で、列にならんでいる。
その腕に腕をからめているのは、浴衣姿の卯月先輩。
大岩……デートのジャマしてやるなんて言ってたけど、ちっともジャマできてないじゃん。
先輩は、黒いつやつやの髪を上にあげていて、黒地に赤いツバキの浴衣を着ている。
すごくおとなっぽい……。
あたしだって、きょうは、がんばってきたんだけどな。
あたしは自分の白いワンピースを見おろした。すそがふんわり広がっていて、ドレスみたい。白いお花の刺繍がちりばめられてる。
こんな服を着たのは、小六のピーターパンの劇で、ウエンディのかっこうをしたとき以来。
あのときは、「あたし、リアルヒメ?」って、うれしくなったんだっけ。
ヒメっていうのは、浅山にすむ妖精の女の子の名前。
でも、ヒメたちがよく遊んでる場所は、山のこんな裾の尾じゃない。もっと登山道を深くのぼって行ったところにある、レンガ造りの砲弾倉庫跡。
思い出しちゃったら、胸がきゅんとして、あたしは木のおいしげった山の斜面を見あげた。
行ってない……。真冬の寒いあの夜から……。
「ねぇ、葉児君。お祭りさ~、なんで、きょうにしたのかな? 花火っていえば、夏でしょ?」
卯月先輩の澄んだ声がきこえてきて、あたしは現実につれもどされた。
「たまたま晴れたから、よかったけど。ふつう、梅雨の時期にお祭りなんかするかな~?」
「ほかの町とは、ちがったことをやりたかったんじゃねぇの? これ、いちおう、町おこしだから」
中条は、無表情でぼそぼそと答えてる。
「それに、夏至祭はヨーロッパでは、大事な祭りだしな」
「あれ? 葉児君って、夏至祭のこと知ってる人なんだ?」
卯月先輩が目をパチパチさせている。
だけど、中条は答えない。
その横顔を見て、あたしは息を飲んだ。
硬い目。するどく地面をにらんでる。こぶしにも力が入っている。震えだしそうなくらいに。
「夏至の時期には生き物が、一番活発になるって言われてる。妖精にとっても。……祭りにまじって、あいつ出てくる可能性だってある……」
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