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2 カノジョとクラスメイトの境界線
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……綾が来てる……。
心臓がドクドクと音をたてている。
今、下のカフェに、綾がいる……。
「……葉児君、なんか上の空じゃない?」
ハッとして顔をあげると、卯月先輩は、オレのベッドのふちに座って、足を組んでいた。
「あの子、来てたよね。なんでだろ? 今カノの偵察かな?」
肩をすぼめて、卯月先輩がくすくす笑う。
なんにも答えられずに、立ちつくす。
「ヤダ。葉児君、怖い顔。葉児君てさ、キホンそうやって、冷たい顔してるよね。植物の話してるときは、すっごいやさしい顔して笑うのに。もったいないよ?」
「別に。人にどう見られるかとか、どうでもいいです」
息をはいて、オレは勉強づくえの前の回転イスに腰かけた。
違和感がした。
自分のベッド。窓。テレビと、その下に置いてあるゲーム機。つみあげられている雑誌。
見慣れたものにまじって、ちがう空気を持つ人間が、ここに座っている。
いごこちが悪い。
だけど相手は、そんなことぜんぜん気にとめないらしく、つけまつ毛をパチパチさせた。
「にしても、わたしが告白したときの、葉児君の返事には、おどろいたな~。『今、オレとつきあったら、カンペキ、先輩を利用しますよ? それでもいいですか?』だもんね。とても、ついこの間まで、小学生だった子の口から出たセリフとは思えない~」
くすくすと先輩が笑う。キレイに左右対称にあがった広角。香水のにおいが少しきつい。
「なまいき言って、すみません」
「ちがうちがう。カッコよくて、しびれたってこと。まぁ、この子なら、わたしとつきあっても、だいじょうぶかって、ぎゃくに安心したしね」
そのまま、じっと相手を見すえていたら、先輩はハァっと、息をついた。
「理由をききたいなら、口に出してたずねてよ。――まぁ、ようするに、わたしも、あなたを利用したいってこと。お互いにおんなじ気持ちなら、罪悪感がなくて、ラクでしょ?」
「……どういうことですか?」
「それは、どうして、あなたを利用したいのかききたいって、こと?」
先輩の目が、おかしそうにオレを見あげる。
「じゃ、わたしが教える前に、葉児君のほうが、わたしを利用したい理由を教えて?」
「……なら、いいです」
オレは勉強づくえにひじをついて、つくえの上に放置されているバラの花を流し見した。
ロゼット状に大きく広がった虹色のバラの花びら。
卯月先輩に気づかれる前に、フェアリー・ドクターの魔力のかかった花を辞書の後ろに隠す。
「え~? なにそれ? わたしの理由知りたくないの~? まったく、淡白だな~」
別に……なんでもいい。
悪いけど、オレはもう、人と深く関わりたくない。
いや、関わったらダメなんだ。
胸の底の方がざわついた。
かあさんとも、鵤さんとも、大岩たちとも……オレはもう、深く関わらない。
だって、あいつ・・・が闇の底からよみがえったとき、オレが大事にしているものは、すべて根こそぎ奪われる……。
耳をすますと、下の階から、かあさんの声が小さくきこえてきた。
綾としゃべってるのか?
……なにを?
脳裏に、綾の笑顔がうかんできた。目をキラキラとかがやかせて笑う、底抜けの笑み。
……見たい。
見るだけでいい。
一目だけでいいっ!
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