ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 カノジョとクラスメイトの境界線

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   ★



 ……綾が来てる……。


 心臓がドクドクと音をたてている。


 今、下のカフェに、綾がいる……。


「……葉児君、なんか上の空じゃない?」


 ハッとして顔をあげると、卯月先輩は、オレのベッドのふちに座って、足を組んでいた。


「あの子、来てたよね。なんでだろ? 今カノの偵察かな?」


 肩をすぼめて、卯月先輩がくすくす笑う。

 なんにも答えられずに、立ちつくす。


「ヤダ。葉児君、怖い顔。葉児君てさ、キホンそうやって、冷たい顔してるよね。植物の話してるときは、すっごいやさしい顔して笑うのに。もったいないよ?」

「別に。人にどう見られるかとか、どうでもいいです」


 息をはいて、オレは勉強づくえの前の回転イスに腰かけた。

 違和感がした。

 自分のベッド。窓。テレビと、その下に置いてあるゲーム機。つみあげられている雑誌。

 見慣れたものにまじって、ちがう空気を持つ人間が、ここに座っている。

 いごこちが悪い。

 だけど相手は、そんなことぜんぜん気にとめないらしく、つけまつ毛をパチパチさせた。


「にしても、わたしが告白したときの、葉児君の返事には、おどろいたな~。『今、オレとつきあったら、カンペキ、先輩を利用しますよ? それでもいいですか?』だもんね。とても、ついこの間まで、小学生だった子の口から出たセリフとは思えない~」


 くすくすと先輩が笑う。キレイに左右対称にあがった広角。香水のにおいが少しきつい。


「なまいき言って、すみません」

「ちがうちがう。カッコよくて、しびれたってこと。まぁ、この子なら、わたしとつきあっても、だいじょうぶかって、ぎゃくに安心したしね」


 そのまま、じっと相手を見すえていたら、先輩はハァっと、息をついた。


「理由をききたいなら、口に出してたずねてよ。――まぁ、ようするに、わたしも、あなたを利用したいってこと。お互いにおんなじ気持ちなら、罪悪感がなくて、ラクでしょ?」


「……どういうことですか?」


「それは、どうして、あなたを利用したいのかききたいって、こと?」


 先輩の目が、おかしそうにオレを見あげる。


「じゃ、わたしが教える前に、葉児君のほうが、わたしを利用したい理由を教えて?」


「……なら、いいです」


 オレは勉強づくえにひじをついて、つくえの上に放置されているバラの花を流し見した。

 ロゼット状に大きく広がった虹色のバラの花びら。

 卯月先輩に気づかれる前に、フェアリー・ドクターの魔力のかかった花を辞書の後ろに隠す。


「え~? なにそれ? わたしの理由知りたくないの~? まったく、淡白だな~」


 別に……なんでもいい。

 悪いけど、オレはもう、人と深く関わりたくない。


 いや、関わったらダメなんだ。


 胸の底の方がざわついた。

 かあさんとも、いかるがさんとも、大岩たちとも……オレはもう、深く関わらない。

 だって、あいつ・・・が闇の底からよみがえったとき、オレが大事にしているものは、すべて根こそぎ奪われる……。


 耳をすますと、下の階から、かあさんの声が小さくきこえてきた。

 綾としゃべってるのか?


 ……なにを?


 脳裏に、綾の笑顔がうかんできた。目をキラキラとかがやかせて笑う、底抜けの笑み。


 ……見たい。


 見るだけでいい。


 一目だけでいいっ!

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