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2 カノジョとクラスメイトの境界線
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しおりを挟む大通りを左にまがって、海が見えたら、右に曲がって。そこから、急なのぼり道。
ヨウちゃんちのある、高台の住宅街へ向かう坂。
イチョウ並木には黄緑色の葉がついていた。三角屋根のペンション風の家がならぶ住宅街。プランターに、ピンクや赤の花が咲いている。
あ……春だ……。
いつのまにか、春になってたんだ……。
最後にここの坂をくだったとき、並木の葉は落ちていた。風は冷たくて、あたしはマフラーにあごをうずめてた。
きゅうっと胸が苦しくなる。
行ったらいけない。
あたしたちは無関係になるって決めた。無関係の人は、他人の家にとつぜんおしかけたりしない。
だからこれは、ルール違反。
「だけど……ヨウちゃんは、卯月先輩と放課後デートに行っちゃったもん。はちあわせしたりしないもん」
何度も何度も、自分の胸にいいわけしてる。
「あたしは、ちょっとお母さんにききにいくだけ。バラのつぼみをつかったフェアリー・ドクターの薬があるのか。お母さんにちょっと教えてもらうだけ……」
ヨウちゃんのお母さんは、お父さんの本やノートを翻訳した人だから、フェアリー・ドクターの薬のことも知っている。
それで……本当にそんな薬があったら……?
ヨウちゃんが、本当にきのう、あたしの夢に入ったんだとしたら……?
あたし……どうしたいの……?
高台のてっぺんに、白い横板壁の家が見えてきた。三角屋根の上で、風見鶏がカラカラとゆれている。
生垣の合間に、バラのアーチ門がそびえてた。
冬には剪定されて、とげのついた茎だけになっていたバラに、もうちゃんと黄緑色の葉っぱが出てる。
アーチの中に、自宅カフェ「つむじ風」の立て看板が置かれてた。
ここがヨウちゃんち。生垣の中は、芽吹いたハーブたちでいっぱい。
だけどあたしは、ハーブガーデンに足を踏み入れないで、バラのアーチに目をこらした。
黄緑色の葉の間のあちこちに、かたいつぼみが芽を出している。
つぼみは、緑の額におおわれていて、すごく小さい。
「ちがうんだ……」
夢で見た虹色のバラのつぼみはもっと大きくて、額が割れて、中から花びらがのぞいていた。
やっぱり、あれはただの夢。
「ね、もしかして、綾ちゃんっ!? 」
ハッと顔をあげると、アーチの奥、ハーブガーデンの先で、玄関のドアが開いていた。
中から、白いひらひらのエプロンをつけた小柄な女の人が走り出てくる。
「……お母さん……」
あたしを見ると、ヨウちゃんのお母さんは泣きそうに眉尻をさげ、ほっぺたにエクボをつくって笑った。
「綾ちゃん~……。会いたかったわ~っ! どうしたの? 葉児に用事?」
「あ……い、いえ! ち、ちがいますっ! あたし、たまたま、ここを通りかかっただけで……。か、帰りますっ!」
「そんな。ちょっとくらい、うちでお茶していかない? もちろん、サービスよ。だって、ひさしぶりじゃない。ね? 葉児が帰ってくるまで。いいでしょ?」
お母さんって、こんなに押しの強い人だったっけ?
「あの……でも……」
「綾ちゃん、教えてほしいの。葉児がなんにも話してくれないから。やっぱり、あのときのことで、綾ちゃん、ご両親にうちに来るのをとめられちゃった?」
……あ……。
あたしは立ちすくんだ。
あたしとヨウちゃんが別れた理由。お母さんは、うちの親が反対したからだと思ってるんだ……。
「ちがいます。そうじゃないんです……。あたし……ヨウちゃんと約束したんです……」
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