395 / 646
2 カノジョとクラスメイトの境界線
12
しおりを挟む「うちはさ、正直、前から、中条より誠のが、綾には合うと思ってたよ。なんていうか、波長があってるみたいなさ~」
「うん。そんなこと、真央と前にも話してたね。綾ちゃんだって誠といるとラクって、よく言ってるじゃない。それって、人とつきあっていくうえで、大事なことだと思うよ」
有香ちゃんが黒縁メガネ越しに、あたしにほほえんでくれる。
「うわ~ん! 和泉のまわりがいい友だちばっかで、オレうれし~っ!」
誠ったら、腕で目を隠して、天井見あげて、ウソ泣きの号泣。
なんだかコントを見てるみたいで、おかしくなった。
「あ! 綾ちゃんが笑ってる!」
有香ちゃんが、つくえに手をついてさけんだ。
「綾、笑え、笑え~」って、真央ちゃんは、あたしのわきの下をくすぐってくる。
「きゃ~」って悲鳴をあげながら、あたし、ケラケラ笑ってた。
だけど、廊下から帰ってきた男子が、誠の席の後ろに座ったとたん、あたし、かたまっちゃった。
ヨウちゃんは、はしゃいでいる前の席を無視して、自分のつくえの中から教科書を取り出している。
真央ちゃんが、あたしをくすぐるのをやめた。有香ちゃんも誠も、息をとめてる。
「……ね。そろそろ、あたしたちも授業の準備しよう」
あたしがつぶやくと、有香ちゃんがうなずいた。
「そうだね。わたし、自分の席に帰るよ」
真央ちゃんも自分のつくえに向き直る。
「ど~しよ、オレ、次の数学、出席番号順で、ぜったいあてられるんだよね~。和泉ぃ、宿題の答え合わせしない~?」
「うん、いいよ~。でもたぶん、あたしもまちがってるよ?」
となりの席同士で、誠と頭をくっつけて、宿題の見せ合いっこ。「ここちがう」とか「和泉のほうが、合ってない?」とかくすくすやってたら、後ろから、ずっと鼻をすする音がきこえてきた。
……あ……ヨウちゃんも花粉症かな……?
あたしのバカ。
気にしないようにしてるのに。
あたしはそっと、自分の手のひらを開けてみた。
虹色のバラのつぼみ……。
あれは本当にただの夢?
「綾、本当にきょうもうちらと部活見学行かないの?」
眉をひそめた真央ちゃんに、あたしはうなずいた。
「うん。あたし、放課後、用事があるから」
「……そっか。ひとりで落ち込むとかじゃないなら、わたしたちはいいんだけど……」
有香ちゃんが不安げに、あごにこぶしをそえてる。
今は、友だちのやさしさが身に染みる。
「そんなんじゃないよ。本当に用事だって。だから、気にしないで! じゃあ、あしたね」
にっこり笑って、ふたりに大きく手をふって、昇降口にかけおりて。
ひとりになったとたんに、ほっぺたの筋肉の力が抜けて、あたし、足元を見る。
放課後の中学の校庭は、部活動をする生徒たちであふれてる。
グランドを走る、サッカー部員。砂場で走り幅跳びをしている、陸上部員。野球場からのかけ声は野球部員。
真央ちゃんと有香ちゃんは、きょうは吹奏楽部の見学に行くって言っていた。誠はサッカー部に入部を決めたみたい。
だけど、あたしはきょうもひとりで、校門をくぐり抜けた。
大通りに出て、道を左に。うちとは反対方向へ。
胸がぐらぐらゆれていて、本当はぜんぜん落ちつかない。
一歩、一歩、踏みだすたびに「いいのかな?」ってまよっている自分がいる。
だけど、足は覚えてる。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―
くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。
「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」
誰も宝君を、覚えていない。
そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『小栗判官』をご存知ですか?
説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。
『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。
主人公は小学六年生――。
*エブリスタにも投稿しています。
*小学生にも理解できる表現を目指しています。
*話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる