ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 花田中学一年生

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「――で。今さらなんだけど、なんで綾は中条と別れたわけ?」


 休み時間。

 真央ちゃんがあたしの席にふり向いて、ほおづえをついた。


「あ、この席ラクでいいな。前みたいに、お互いの席に移動して話す必要ないもんな」

「わたしは、あいかわらず移動だけどね」


 有香ちゃんはあたしの席の横にイスを運んできて、腰かける。


 びっくりした。

 真央ちゃんたら、とつぜんきくんだもん。


「それ……やっぱり、言わなきゃいけない……?」


 あたしは、視線を教室の後ろに泳がせた。

 ヨウちゃんは教室の後ろのロッカーに腰でもたれて、大岩と部活動のプリントを見ている。


「まぁ、言いたくないなら、別にいいけど。綾、別れたときも理由は話してくれなかったじゃん。でも、うち的には、ずっと引っかかってんだよね。だって綾たち、別れる直前まで、ふつうにラブラブだったろ。バレンタインデーのチョコも手作りしたし」

「そういえば、三人で、わたしの家でつくったね。だけど、真央。もう、この話はやめようよ」


 有香ちゃんがおろおろと、あたしと真央ちゃんを見比べてる。


「そりゃ、綾にだっていろいろ事情があるんだろうし。本人が話す気のないことに、口出ししたらいけないのは、わかってるよ。だから今まで、うちだって、なんにもきかずにいたじゃん。でもさ……さっきの席がえのことといい。なんてゆ~か、どうしても気になってさ……」


 真央ちゃんは、カリカリ、自分のショートの髪をかいた。


「だって、中条、いまだに綾のこと見てるぞ」


 ドキッと心臓が鳴った。



「……え?」



「真央、やめな!」


 有香ちゃんが、イスから立ちあがる。


「けど、有香だって気づいてるだろ? 綾といっしょにいると、いつもあいつの視線を感じるんだよ。誠だって……言わないけど、気づいてる。綾だって、本当はわかってんだろっ  あいつはまだ、綾のこと……」


「やめてっ!」


 あたしの金切り声が教室にひびいた。


 生徒たちの笑い声が、消える。

 両耳を両手でおさえて、あたしは自分のつくえにちぢこまった。


「真央ちゃんのバカっ! ほっといてよっ!! 」


 教室がざわついているのがわかる。みんなに注目されちゃってる。


 どうしよう……ヨウちゃんにまで、気づかれちゃう……。


「真央。だから、やめろって言ったでしょ? 綾ちゃん、だいじょうぶ? ほら、部活見学に行く話しよ。綾ちゃんは、どの部に入りたいの?」


「ご、ごめん。綾……。うち、言いすぎた……」


 あたしはぶんぶん、自分の髪を横にふった。


「……いいの。大声出してごめんね……」


 なさけない……。


 別れてからもう、二ヶ月もたつのに……。

 あたし、いつまでもずっと、こんなんで。

 まわりに、気をつかわせちゃって……。




「ここだよね? 一年の教室」


 きき慣れない声が、教室にひびいた。

 よく通るソプラノの声。



「あの子でしょ? 中条君って」


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